72人が本棚に入れています
本棚に追加
第一部 告白
放課後になると、羽沙と詩衣那はいつものように連れ立ってオカルト部へと向かった。
オカルトなど非科学的で非生産的な活動であると一部の生徒からは蔑まれていたが、ここ、私立湊翔学園高校は創造と自由を重んじる校風で、ちょっと変わった部でも正式な部活動として許可を出していた。
オカルト部の部屋は、教室から一番遠いところにあり、ゆっくり歩けば10分程度はかかる。
二人は、その間歩きながら雑談をするのが恒例であり、楽しみの一つであった。
詩衣那が、「クックック」と含み笑いしたので、羽沙は訊いた。
「楽しいことでもあった?」
「ちょっとね。クックック…」
「笑っているだけじゃ、分からないよ」
「羽沙に相談があるんだけど、終わってから話せない?」
「いいよ」
羽沙は、家庭の事情で親元を離れ、湊翔学園に越境入学して学園長の家に下宿していた。
その家は学校のすぐ近くにあり、徒歩で通学している。
詩衣那は電車通学のため、二人だけで話したい時は、部活動が終わってから時間を作る必要があった。
(他の誰にも聞かせたくない話なら、いつもの恋バナかな?)
詩衣那は、恋多き女子である。
今まで彼氏が途切れたことがなく、その上、すぐに飽きて相手を変える。
そのたびに相談してくるので、高校に入ってからの歴代彼氏を羽沙は全て知っていた。
直近の彼氏は、同じオカルト部部長である涼真。しかし、すぐに別れたと聞いていた。
手近なところでくっついたり離れたりするのは、詩衣那の得意技である。そんなことをして、別れたあと気まずくないのかと羽沙は心配するのだが、彼女は気にしないらしい。
今日もこの後、二人は顔を合せるだろう。
振られた涼真の方は、しばらく落ち込んでいたようだが、部活には休まずに参加している。
涼真は部長である。責任感が強いため、振られたからといって部活を投げ出すようなことはしないらしい。
詩衣那に言わせると、元カレは大親友になる……そうだが、羽沙にはさっぱり理解できない。
自分だったら、別れたら二度と話したくないと思うだろう。
そうはいっても、彼氏ができたことがないので、その時に自分がどう思うかはまだ想像できない。
時々、詩衣那は羽沙にこう訊く。
『私のこと、呆れちゃう?』
それに対して、羽沙はいつだってこう答える。
『誰と付き合っても、詩衣那が幸せなら応援するよ』
それは羽沙の本心である。
天真爛漫で男女誰からも愛される詩衣那。
彼女は、自分にないものを持っていて、大好きだし、いつまでも仲良くしてほしいと羽沙は願っていた。
最初のコメントを投稿しよう!