第一部 告白

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 部室に行くと、他のメンバーはすでに来ていて二人が最後だった。  涼真、星冬(せいと)、季里乃、そして、草平。この六名の2年生で全員だ。  3年はもう引退していて、今年の新入生の入部はなかった。  そのことに関して、涼真は、「僕たちが引退したら廃部になってしまう」と、部長として責任を感じていた。  全員揃うと、机を囲んで会議が始まった。 「諸君、我々オカルト部が危機的状況にあることは、充分に分かっていると思っている。本日は、どうすれば1年を入れることが出来るか、解決策について話し合おう」 「はい! いい案があります!」  季里乃が積極的に挙手をした。 「発言を許可する」 「イベントを行います」 「コンテンツは?」 「心霊写真を掲示して、お化け屋敷を教室内につくって、我々がゾンビになって驚かします!」 「ちょっと待て。それは文化祭でやればいい。その前に部員を入れたい。文化祭を待っていては遅い」 「どうしてですか?」 「お金がない。文化祭の出し物なら、生徒会から予算が出る。それ以外は自腹だ」  お金の話が出てきた途端に、季里乃はシュンとして下を向いて黙った。  羽沙は、お金の協力だけは出来ないなあとぼんやり考えた。  両親からは学費と最低限の生活費分の仕送りしか貰っていない。  ハッキリ言って、日々のお小遣いもカツカツだ。 「すみません。私たちはまだ高校生です。お金のかからない方法にしませんか?」  羽沙の意見に、他の人達も同意して頷いた。 「オカルト座談会とか、予言を集めた発表会とか、怪談会を開催してはどうでしょうか?」 「興味を持たれるか?」 「誰が話すの?」 「地味かもね」 「降霊会体験ってのは?」 「内輪でやるなら面白そうだけど、参加者いるかなあ?」  皆でワイワイ言いながら話し合うのは楽しいが、意見がまとまらない。  外は曇天で暗いが、室内は熱気があって明るい。  涼真が手を上げた。 「僕から皆に一つ提案がある!」 「何だよ! 俺たちを泳がせたろ! 用意していたんなら、最初から出せよ!」  星冬は、涼真の態度に反発した。  真面目でスマートな涼真に対して、星冬は茶髪で制服を着崩している不良タイプ。  そんな彼でも、オカルトは大好きで休まず熱心に参加しているし、口は悪いが涼真とは仲が良い。  草平は、ほとんど喋らず肩身を縮めて黙って座っている。  覇気のなさが不気味ではあるが、オカルト部には一番ハマっているように見える。  彼らに慣れてくると、皆ものすごく普通の性格の人だと分かる。  涼真は、自分のノートを取り出すと、そこに挟んでいた折りたたまれたコピー用紙を一枚取り出して、ホワイトボードにマグネットで留めた。そこには粗い画像の建物写真が印刷されていて、とても不気味に見えた。 「分かるとは思うが、S駅の近くにある廃団地だ」 「ああ、あるね」 「遠目に見える建物だね」  S駅は、ここからそんなに遠くない。  そんなところにこのような廃団地があったとは、よその地方から来た羽沙は当然知らない。羽沙以外は、心当たりがあるようで頷いている。  星冬が訝しげに訊いた。 「それは誰が撮影したんだ? あそこは一本道で入口から侵入禁止。近づく事さえできないはずだ」 「これは、ネットで拾った写真。だから画像が悪いのは勘弁してくれ」 「ネットにあそこの団地が?」 「昔に撮影していたものを、最近になって誰かがネットで公開したんだろう」 「なるほど。それで?」 「ここは何十年も放置されていて、荒れ果てている。物凄く雰囲気がいいんだ。この廃墟映像を撮影して、上映会をするのはどうだろう? きっといい映像が撮れる。もしかしたら心霊現象も撮れるかもしれない」 「それって、不法侵入じゃない?」 「調べてみたら、バブル時代に買い取った業者が解体途中で夜逃げして、今や所有者不詳らしい。だからずっと放置されているんだよ。つまり、中に入っても、文句を言う人はいないってことだ」  涼真がそんなことを言うのは珍しい。それだけ、切羽詰まっているとも言える。 「それって、涼真が見つけたのか?」  草平がおずおずと手を上げた。 「いや、僕……」 「草平が? 珍しいこともあるもんだな」 「たまたまネットで見つけて、知っているところだったから、面白半分で部長に提案したんだ」 「近くでもあるし、皆で今度の休みの日に行こう」  半ば強引に全員の参加が決められて、今日の活動が終了した。
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