第一部 告白

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 皆が帰ったあと、羽沙(つばさ)詩衣那(しいな)二人だけで部室に残った。 「で、話って?」 「クックック……」  詩衣那は、何も言わないで笑っている。 「……」 「クックック……。誰にも言わないでよ」 「うん……」 「クックック……。絶対、絶対、誰にも言わないでよ」 「言わないよ」 「クックック……。絶対、絶対、絶対だよ。誰にも言わないでよ」  しつこいほど念押しする。  羽沙は、今まで誰かに秘密を洩らしたことなどない。  でもこれは、詩衣那が羽沙を信じられないのではなく、詩衣那自身がこの状況を楽しんでいるだけである。つまり、勿体ぶっているのだ。  そうだと分かっていても、さすがにウンザリする。  そんなに内緒にしてほしければ、自分が言わなきゃいいのだ。 「あのね、クックック……」 「うん……」 「明日、呼び出すつもり」 「誰を?」  肝心なところを不必要にぼかす。 「星冬(せいと)」 「は?」  今度は、涼真の一番近くにいる星冬を好きになったようだ。 「なんで、あいつを?」 「え? まさか羽沙もあいつを好きとか?」  詩衣那がキラキラした瞳で羽沙を凝視した。 「違う。意外だっただけだよ」 「もしかして、草平の方が『ありかな』って思っていた?」 「いや、そうじゃなくて……」 「草平は季里乃とお似合いだと思う。あの二人、気が合いそうじゃない? 実はもう付き合っているってことはないよね?」  他人の恋愛事情を気にしている。 「二人のことは分からないけど、涼真の方がいいんじゃないかなって思っただけ。背が高いし、優しいし、成績もいいし」 「あれはもういいの」 「いいの?」 「うん。もう、どうでもいいの。今日だって、平然としていたでしょ? 私のことをきれいさっぱり忘れる冷たい奴だから」  詩衣那の得意技は、手のひら返しだ。 「それは、彼は部長だし、プライベートのことで部の雰囲気を壊さないように、気を張っていたんじゃない?」 「それが嫌なの」 「へ?」 「私より部活優先なんて、許せない」  どうやら、別れた原因は詩衣那の我儘の様だ。 「明日の放課後、中庭に呼び出すんだ」  詩衣那は、考えただけで楽しいようでウキウキしている。 「そういうことで、明日は一緒に帰れないから」 「それは気にしないで。頑張ってね」 「うん!」  詩衣那は、輝く笑顔を見せた。  振られることを全く想定していない。羽沙(つばさ)には絶対真似できない。  羽沙は、男子を好きになったことがないが、もし好きな人が現れたとしても、告白して受け入れられる自信など絶対に持てないだろう。  呼び出しても、来てくれるとは思えないし、来なかっただけで大きく傷つくに違いない。  傷つかないように生きていく。そのことだけを考えて、羽沙は必死に生きている。  二人は、分かれ道まで一緒に帰った。 「じゃ、またね」 「成功を祈っているよ」 「任せて!」  詩衣那は、元気に手を振って去っていった。
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