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星冬が草平の元に行くと、背後からは、「ウソ! クサ平に用事?」「クサ平と話すことなんてあるんだ」「オカルト部だから?」と、女子の驚く声が聴こえてきた。
それを聴いた草平は、気まずそうになる。
「クサ平? 草平は、クサ平って、呼ばれているのか?」
「ああ。ちゃんと風呂に入って洗っているんだけど、クサい、クサいってからかわれて、クサ平になったんだ」
星冬は、草平がそのように呼ばれているとは全く知らなかった。
「知らなかった」
「知らなくていいよ」
草平は、女子の自分への扱いが泣きたくなるほど恥ずかしくて情けなくて、誰にも相談していなかった。
「ごめん」
「何が?」
「気づいてやれなくて」
草平は、驚いた。そんなことを言われるとは、夢にも思っていなかった。
「同情はやめてくれ。逆に惨めになる。で、何の用? 目立つから、嫌なんだけど。サッサと済ませて、自分のクラスに帰ってくれよ」
草平は、星冬がいつまでもここにいて、自分の恥ずかしい姿をこれ以上晒したくなくて、追い返そうと冷たくあしらった。
「そうやって呼ぶのは、あの三人だけか?」
「ああ」
「そうか。分かった。あの三人には、俺が後できっちりけじめをつけてやる」
「けじめ?」
何をする気だと、草平は心配になった。
「それはそれとして、用件だけど、詩衣那から伝言を預かっている」
「詩衣那から⁉」
「放課後、詩衣那が中庭に来て欲しいって」
大嘘をついてまで呼び出すのは、もう一人に知られることなく、草平だけに相談したかったからだ。本物の草平かどうか、確認してからでないと何も話せない。
目の前にいるのが草平ではなく、双子と入れ替わっている可能性がわずかでもあるのなら、排除したい。詩衣那につられてやってきたら、本人確定だろう。
(しかし、違いが分からないなあ)
どれだけ双子が似ていたとしても、どこかに違いはあるはずだ。それなのに、目の前の草平が本人かどうかすら確信を持てない。
草平を見ても、(こんな顔だったっけ?)と、思ってしまう。
それだけ、普段から関心を持って見ていなかったということだ。星冬は、己の無関心を激しく反省した。
「ウソだね」
「え? 疑うのか?」
「のこのこと現れた僕を笑いものにするんだろ」
「そんなことはしない。本当だ。本当に詩衣那は来る」
「……」
「俺が今までお前に意地悪をしたことがあったか?」
「そうだけど……」
星冬の真剣な表情を見た草平は、心を揺れ動かされた。
星冬が言うように、今まで苛められたり、からかわれたりしたことはない。
さっきも謝らなくていいのに謝ってくれたし。いつも仲間として扱ってくれていた。
(信じてみようか)
詩衣那が自分を呼び出すことには懐疑的だが、星冬の言葉は信じるに値する。
「……本当に?」
「本当だ。あ、でも、興味がなければ来なくていいよ。無理はしなくていい。詩衣那には、俺から謝っておくから」
一旦引いてみようと、星冬は、わざと突き放す言い方をした。
「放課後、中庭だね。考えておく」
「おう、よろしくな」
第一段階クリア。星冬はホッとした。
「じゃ、あとはあの三人だな」
「暴力はやめてよ。あとから僕が仕返しされる」
気が弱いところは、草平そのものだ。
双子のもう一人だったら、きっとそんな心配はしない。多分、やられたらやり返すだろう。双子でも気質は真逆である。
「心配するな。悪いようにはしない」
星冬は、女子三人につかつかと近づいた。
「え?」「な、何?」「ヤダ! 近い!」
女子たちはドギマギ、アタフタしている。
星冬は、グイッと顔を近づけて目力を見せつけた。
「あいつの名前は、ソウヘイだ。ソ・ウ・ヘ・イ! 二度と間違えるなよ」
「あ、う、うん」「分かった」「ソウヘイだね。ちょっと読み間違えていたわ」
「じゃあ、草平に謝れよ」
「えー」
「謝らないのか?」
「ウ……」
星冬の気迫に負けた女子三人は、草平のところに行くと、「ごめんなさい」「もう呼ばないから」「許して」と草平に謝罪した。
「う、うん」
星冬は、草平が謝罪を受け入れるところまで見届けると、自分のクラスに戻った。
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