第六部 最後のループ

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 星冬(せいと)草平(そうへい)の元に行くと、背後からは、「ウソ! クサ平に用事?」「クサ平と話すことなんてあるんだ」「オカルト部だから?」と、女子の驚く声が聴こえてきた。  それを聴いた草平は、気まずそうになる。 「クサ平? 草平は、クサ平って、呼ばれているのか?」 「ああ。ちゃんと風呂に入って洗っているんだけど、クサい、クサいってからかわれて、クサ平になったんだ」  星冬は、草平がそのように呼ばれているとは全く知らなかった。 「知らなかった」 「知らなくていいよ」  草平は、女子の自分への扱いが泣きたくなるほど恥ずかしくて情けなくて、誰にも相談していなかった。 「ごめん」 「何が?」 「気づいてやれなくて」  草平は、驚いた。そんなことを言われるとは、夢にも思っていなかった。 「同情はやめてくれ。逆に惨めになる。で、何の用? 目立つから、嫌なんだけど。サッサと済ませて、自分のクラスに帰ってくれよ」  草平は、星冬がいつまでもここにいて、自分の恥ずかしい姿をこれ以上晒したくなくて、追い返そうと冷たくあしらった。 「そうやって呼ぶのは、あの三人だけか?」 「ああ」 「そうか。分かった。あの三人には、俺が後できっちりけじめをつけてやる」 「けじめ?」  何をする気だと、草平は心配になった。 「それはそれとして、用件だけど、詩衣那から伝言を預かっている」 「詩衣那から⁉」 「放課後、詩衣那が中庭に来て欲しいって」  大嘘をついてまで呼び出すのは、もう一人に知られることなく、草平だけに相談したかったからだ。本物の草平かどうか、確認してからでないと何も話せない。  目の前にいるのが草平ではなく、双子と入れ替わっている可能性がわずかでもあるのなら、排除したい。詩衣那につられてやってきたら、本人確定だろう。 (しかし、違いが分からないなあ)  どれだけ双子が似ていたとしても、どこかに違いはあるはずだ。それなのに、目の前の草平が本人かどうかすら確信を持てない。  草平を見ても、(こんな顔だったっけ?)と、思ってしまう。  それだけ、普段から関心を持って見ていなかったということだ。星冬は、己の無関心を激しく反省した。 「ウソだね」 「え? 疑うのか?」 「のこのこと現れた僕を笑いものにするんだろ」 「そんなことはしない。本当だ。本当に詩衣那は来る」 「……」 「俺が今までお前に意地悪をしたことがあったか?」 「そうだけど……」  星冬の真剣な表情を見た草平は、心を揺れ動かされた。  星冬が言うように、今まで苛められたり、からかわれたりしたことはない。  さっきも謝らなくていいのに謝ってくれたし。いつも仲間として扱ってくれていた。 (信じてみようか)  詩衣那が自分を呼び出すことには懐疑的だが、星冬の言葉は信じるに値する。 「……本当に?」 「本当だ。あ、でも、興味がなければ来なくていいよ。無理はしなくていい。詩衣那には、俺から謝っておくから」  一旦引いてみようと、星冬は、わざと突き放す言い方をした。 「放課後、中庭だね。考えておく」 「おう、よろしくな」  第一段階クリア。星冬はホッとした。 「じゃ、あとはあの三人だな」 「暴力はやめてよ。あとから僕が仕返しされる」  気が弱いところは、草平そのものだ。  双子のもう一人だったら、きっとそんな心配はしない。多分、やられたらやり返すだろう。双子でも気質は真逆である。 「心配するな。悪いようにはしない」  星冬は、女子三人につかつかと近づいた。 「え?」「な、何?」「ヤダ! 近い!」  女子たちはドギマギ、アタフタしている。  星冬は、グイッと顔を近づけて目力を見せつけた。 「あいつの名前は、ソウヘイだ。ソ・ウ・ヘ・イ! 二度と間違えるなよ」 「あ、う、うん」「分かった」「ソウヘイだね。ちょっと読み間違えていたわ」 「じゃあ、草平に謝れよ」 「えー」 「謝らないのか?」 「ウ……」  星冬の気迫に負けた女子三人は、草平のところに行くと、「ごめんなさい」「もう呼ばないから」「許して」と草平に謝罪した。 「う、うん」  星冬は、草平が謝罪を受け入れるところまで見届けると、自分のクラスに戻った。
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