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途中で早川合美とすれ違う。
(早川合美だ……)
廃団地で残虐に殺された彼女のことを忘れちゃいけない。
(早川合美は、いつどうして廃団地に行くことになったんだろう?)
彼女はなぜ殺されたのか。
なぜあそこだったのか。
彼女の死こそ、謎だらけである。
犯人がオカルト部員だけを狙ったのでないとしても、わざわざ彼女を呼び出して殺す目的はあったのだろうか?
(犯人の意図って、何なんだろう?)
どう考えても、星冬に狂人の思考などにサッパリ分からない。
(俺たちは、昨日の部活で廃団地行きを決めている。早川合美はその後に知ったと思うんだが。……待てよ? アイデアを出したのは草平だ。あれって、実は草平の双子のアイデアだったんじゃないか? 草平は目的も知らずに言わされただけ。早々に殺されたのも、口封じだったんじゃないか? 俺たちを廃団地に呼び出すことに成功したから、早川合美にも教えた。俺たちは、そいつの手のひらの上でいいようにあしらわれ、殺されたってことだ。……本当に人なのか?)
全て計画通りの凶行。
人格のない虫けらのごとく、皆が殺されてきたのだと思うとゾッとする。
(しかし、どうやって早川合美をあそこに呼び出したんだろう? 草平の名前で呼び出せるとは思えない。何かでおびき出すことになるが)
考えれば考えるほど、混沌として頭がこんがらがっていく。
星冬は、早川合美について知識がなさ過ぎるからか、何も思いつかない。
(どうであれ、このままでは廃団地で殺されてしまう。そっちも何とか阻止しないと)
彼女を救わなければ、全員助かったとは言いきれない。
(どこかで草平か双子の片割れと接触するかもしれない。一日中見張っていることは出来ないが、犯人だって、自由に行動できる時間は限られているはずだ)
出来るだけ、早川合美の行動に気を付けておくことにした。
昼休みになった。
いつもは購買でパンを買うのだが、早川合美が学食にいたので、自分もそこで食べることにした。
日本蕎麦を選び、トレイを手にして席を探していると、涼真の隣が空いていた。そこからは、テラス席にいる早川合美が見える。
「ここ、いいか?」
「ああ」
「涼真が学食に来るのは珍しいな」
「うっかり、弁当を忘れてさ」
「涼真にもうっかりがあるんだな」
「まあな……」
何か悩みがありそうな顔をしている。
(まさか、詩衣那の裏切りに感づいているとか?)
自分のせいじゃないのに、とても後ろめたい。
(ここで俺が詩衣那の呼び出しに応じたら、やっぱり涼真を裏切ることになるんだよなあ)
皆を救うためとはいえ、そんな事情を誰も覚えていないのだから、自分の行動は単なる裏切りに見えてしまうだろう。
(やっぱり、やめとこうか。俺が行ったところで、廃団地行きが阻止できる確証はないし)
大きく気持ちが揺らぐ。
(褒められたい訳じゃないけれど、俺が一人で頑張ったとして、誰も記憶がないのだから裏切り者扱いだ。それって結構虚しいよな。なまじ記憶があるばかりにこうして葛藤するのなら、いっそ、涼真たちみたいに何にも知らないで、ループしている方が幸せなのかもしれない……)
星冬は、無意識に胡椒の小瓶を手に取ると、蕎麦の上で振った。涼真がそれを見て驚いた。
「それ、胡椒だぞ。普通、蕎麦には七味だろ」
「え? ああ! ラーメンと間違えた!」
考え事に集中しすぎて、全く気付いていなかった。
「あー、真っ黒だ!」
取り返しのつかない量が器に浮いている。
「ハハハ。それはそれで、新しい味になって美味しいんじゃないか?」
「そう?」
「そう。間違ったと思ったら、正せばいい。これは新しい食べ方なんだってのも、ありだと思う」
涼真に慰められて、涙が出そうなる。
(止められるのが俺しかいないんなら、俺は……、俺は……、たとえ誰にも理解されなくても、選んだ道が間違っていないんだから、自信を持てばいいだけだ!)
星冬は、涙をグッと堪えて自分に言い聞かせた。
「これは! 新しい味だ!」
胡椒まみれの蕎麦を思いっきりすすったら、ゲホッとむせた。
「ゲッホ! ゲホゲホ!」
咳が止まらない。
それを見た周囲の生徒がクスクス笑っている。
涙目の星冬を見た涼真が、「やっぱ、からかったか。安易に勧めて悪かった」と、謝った。
気付くと早川合美の姿が消えている。動向を探るどころじゃなかった。
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