71人が本棚に入れています
本棚に追加
食後は、午後の授業が始まるまで部室で過ごすことにした。そこで星冬は涼真と早川合美について話した。
「早川合美について訊きたいんだが、何か知ってる?」
「……」
涼真が寡黙になる。根が正直者なので、こうなる時は何か知っているということになる。
「知っているんだな。俺に打ち明けてくれよ。二人だけの秘密にするからさ」
無理強いにならないよう、慎重に情報を引き出していく。
「……彼女がどうしたって言うんだ? 星冬は気になるのか?」
素直に話してくれないということは、やはり重要な事情を隠しているようだ。
「えーと、俺のダチがさ、好きみたいでさ……。ちょっと、いろいろ協力しようと思って……」
「ウソだね」
「え?」
見透かされていたかとドキリとした。
「そういう時は、大体本人なんだよ。星冬自身の話だろ。早川合美を好きなのか?」
「それだけは絶対に違う。そこだけは明確に否定させてくれ」
「……」
納得したのかしていないのか、涼真は何とも言えない表情をした。
「知っている事を俺に包み隠さず教えてくれ。彼女の好きな男とか。黒い噂とか。何かないか?」
「好きな男のことなら、多分知っている」
「誰?」
「……僕、だな」
「そうだったのか⁉」
星冬は、全く知らなかった。
学食で見た彼女の後ろ姿を思い出す。
「いや、待てよ。さっき、学食にいたよな。涼真の席から良く見える位置で後ろ向きだった。あれでは涼真の顔が見えないじゃないか。あれってどういう事?」
「僕があの子を見たくて、あの席を選んだんじゃないのかと言いたいなら、逆だ。僕が先に座っていて、向こうが後からやってきて、あそこに座った。毎回、僕の視界に入る位置を選ぶんだよ。こっちは見たくないんだけどさ」
「マジ? わざと見える位置に? キモ!」
視界に入る位置に来て、後ろ姿を見せつける手法が気持ち悪すぎる。
(早川合美は、ストーカーだったってことか)
無関係なのに、事件にたまたま巻き込まれた憐れな犠牲者と思っていた。今まで抱いていたイメージが覆されていく。
(しかし、これで彼女があの惨劇に関わっていた可能性も否定できなくなった。そこからどうやってあの状態になるんだろうか?)
早川合美がクマの着ぐるみを被って死ぬまでに、一体何が起きていたのか。
「涼真は向こうのことをどう思っているんだ?」
「それを訊くか? 勿論、僕には詩衣那がいるんだから興味ないよ。告白されてもキッチリ断っているし、アプローチは全部無視している」
「うーん。なかなか……」
涼真は詩衣那一筋である。それは嫌というほどループの中で見てきた。いい奴なのに、詩衣那のことなると冷静な判断が出来なくなるほどだ。
(早川合美は、涼真と詩衣那の仲に割って入ろうとしていた。それを利用されたのかも)
だんだんと、道筋が見えてきた。
「なあ、そのことって、他に誰か知ってる?」
「さあ? 僕自身があの子に興味ないから、他も知らない」
「詩衣那は知っているかな?」
「僕から話すことはないけど、誰かから嫌がらせを受けているって、ぼやいていたことがあったかな。というか、それを教えてくれたのは羽沙だな。守ってやれとかなんとか、忠告を受けたことがあった。そう言われても、僕に出来ることって何があるって言うんだよ。教えて欲しいぐらいだよ。今日だって迷惑を掛けられているんだし。ただそこにいるだけだから何も言えないけど、気分は良くない」
涼真はお手上げ状態だ。
「なるほど。事情はよく分かった」
――キンコンカンコン。
昼休み終了のチャイムが鳴った。
最初のコメントを投稿しよう!