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外は薄暗くて静か。少しひんやりしている。
つまり、今日のような午後は、睡魔との闘いになるのが常である。
しかし、今日の星冬は違った。気が高ぶっているのか、眠気とは無縁でばっちり目を開いている。
じりじりと時間が過ぎるのを待ち、何度も時計を見た。
――キンコンカンコン。
「はあー、終わったー」
気持ちよく伸びをする。
「すぐ行くより、タイミングを見計らった方がいいな」
教室で少しだけ時間を潰してから、中庭が見える場所に向かった。
建物の影から様子を伺う。詩衣那が一人で待っている。
「草平は来ていないか」
ガッカリしていると、後ろから肩を軽く叩かれて、振り向くと草平だった。
「来てくれたんだ」
「……」
星冬の嬉しそうな顔に草平が戸惑っている。
星冬は、詩衣那を指し示した。
「ほら、あそこで詩衣那がちゃんと待っているだろ」
「……待っているのは、僕じゃないんだろ?」
「まだ疑う?」
「だって、昼休みのあとすれ違ったけど、まったく無視だったよ。そのことだけ伝えようと思ってきたんだ。もう僕は用無しでいいよね」
帰ろうとする草平を星冬はひき止めた。
「実は、草平に話があるのは俺だったんだ」
「え?」
草平は、非常に驚いている。
「どういうこと?」
「騙したことは謝る。でも、これ以外の選択肢がなかった。俺は、草平、本物のお前と話したかった」
草平は、顔をしかめた。
「本物の僕って、どういう意味だよ」
「草平には、本物と偽物がいるみたいなんでね。俺の言っている意味、分かるよな」
草平がバツの悪い顔になる。
「正直に話してくれ。草平は双子なんだろ?」
「……」
よほど知られたくないのか、草平は喋らない。
「頼む。大事な事なんだ」
「なんで、そんなに知りたいんだよ」
星冬は、手ごたえを感じた。
(もう一押し。ここは少し強引でもいいだろう)
「双子の名前は?」
「木平」
とうとう教えてくれた。草平の心が動き出している。
「双子の兄弟は木平と言うんだな。どうして存在を隠すんだ?」
「いろいろあって、口にするのも憚られるんだよ」
(やはり、そうだったか)
木平は、兄弟にすら恐れられ疎んじられている。それだけ問題人物ということだ。
廃団地で暴れまくった殺人犯は木平である。
「木平って、何をしたんだ?」
「身内の恥だから言えない」
「もしかして、今でも悩まされているんじゃないか?」
草平は、ギョッとした。
「図星だな。その木平は何をしたんだ?」
「……」
「何でも相談に乗るぞ。俺たちは仲間じゃないか」
「仲間……」
星冬の言葉が、草平の他人を拒否する頑なな心の壁を突き崩していく。
「僕は、本当に何にも知らないんだ……」
「身内なのに?」
「木平と一緒に暮らし始めたのは、最近のことだ」
草平がようやく重い口を開いた。
(よほど重い事情を抱えているようだな。じっくり聞き出したいが……)
ポツリポツリと雨が降ってきて、あっという間に土砂降りとなる。
(もう少しなのに!)
このまま草平を返すわけにはいかない。
せっかく打ち明ける気になっているのに、この機会を逃すのが怖い。
詩衣那が濡れている。ここで顔を見せたら、絶対に時間を取られる。気の毒だが、待ちぼうけしてもらうことにした。
(詩衣那、すまない! また風邪を引くだろうが、そのままでいてくれ!)
心の中で謝ると、「屋根の下で話そう」と、草平と一緒に校舎へ駆け込んだ。
「詩衣那は?」
「羽沙が来るから大丈夫だ」
草平の心配を適当な理由で打ち消した。
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