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――ブゥー、ブゥー、ブゥー、ブゥー、ブゥー、ブゥー……
真夜中なのに、スマホがしつこくブルっている。
「着信?」
まだ起きていた星冬は、スマホを手に取り発信元を確かめた。
「涼真? こんな時間に掛けてくる奴じゃないのに?」
訝しがりながら出ると、『おい、変な事はやめろよ』と、興奮した声でいきなり叱られた。
「変な事?」
詩衣那の呼び出しを知られたのか?
それとも、ループを思い出したのか?
心当たりがあり過ぎて、どれについて言われているのかピンとこない。
『とぼけるなよ』
「何について言っているのか、教えてくれないと」
『怪文書がうちの郵便受けに入っていた』
「怪文書?」
想像の斜め上を行った。それには、全く心当たりがない。
『星冬の所には来たか?』
「いや、入っていなかったと思う」
そんなものが入っていたら、家族で大騒ぎになっている。
『やっぱり。内容からみて星冬だろうと思った。他の人には、すでに確認済みだ。誰も怪文書のことを知らないといっていた。確認は星冬が最後。本当のことを言え』
「俺も知らないよ。俺がそんなことをする性格じゃないのは、涼真もよく知っているだろ」
『……それもそうか。星冬は、こんなことしないか』
涼真は、冷静になって考え直した。
疑いが晴れてホッとする。
『疑って悪かった』
「いいさ。で、その怪文書には何と書いてあったんだ?」
『今、画像を送る』
すぐに画像が送られてきた。
パッと目に入ったその文字を見た星冬は、芯から体が凍えてゾッとした。
『ハ イ ダ ン チ ニ イ ク ナ』
赤色の極太マーカーで便箋一杯に殴り書きされたそれは、まるで呪符のようにも見える。
『な、不気味だろ?』
「確かに。でも誰がこんなことを出来るんだ?」
コソコソと郵便受けに入れていく姿を想像しただけで、恐怖が増幅する。
『星冬が一人だけ反対したから、てっきり、これを書いたのはお前だと思い込んでいた』
「だから、俺じゃねえし」
『ともかく、週末の部活は部長権限で中止する』
「中止にするんだ」
あれだけ廃団地行きを強行しようとした涼真があっさりと翻した。
それだけ怪文書が不気味だったのだろう。
まさか、こんなことで自分の望みが叶うとは思わなかった。
でも、自分は出していない。
こんな姑息な手段など、たとえ上手くいったとしても、気分が悪くなるので使わない。
『これを書いた奴の狙い通りになるのは癪だが、ケチが付いたところにみんなを連れていけないからな。もう他のメンバーには連絡済みだ』
「取りやめは大英断だと思うよ」
『一体誰がこんなことをすると思う?』
「さあ? 俺にもサッパリ分からない」
『絶対に身内の誰かなんだよ。僕らが廃団地に行くことを知っているのは、僕らだけだからな」
「そうだな」
木平と早川合美のことを、涼真はまだ知らない。
『今夜は遅いから、犯人捜しはまたにする。じゃあな』
「ああ」
星冬は、涼真との電話を切った後、誰が怪文書を出したのか考えた。
「差出人には、ループの記憶がある」
そうでなければ、この発想は出てこない。
「季里乃? ……いや、彼女なら、まず俺に言うはず」
怪文書の目的は、怖がらせて廃団地行きを断念させること。そうなると、木平ではない。
この差出人は、阻止するなら部長の涼真だけを説得すればいいと知っている。だから、他の人には出していない。
早川合美なら、そんなことも知らなくて、誰彼構わずばら撒くだろう。
やはり、内情に精通している草平、羽沙、詩衣那のいずれかになる。
「俺がループを口にした時、何故か黙っていた。もしくは、後で気づいた。そのどちらか。あるいは、草平が木平の目的を知って、邪魔立てしているか」
それが一番ありがたいが、木平の怒りを買えば、ただではすまされない。
「とにかく、涼真がやっと中止にしてくれた。ようやく惨劇のループを防げる」
星冬は、少しだけ気が楽になった。
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