第六部 最後のループ

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 ――ブゥー、ブゥー、ブゥー、ブゥー、ブゥー、ブゥー……  真夜中なのに、スマホがしつこくブルっている。 「着信?」  まだ起きていた星冬は、スマホを手に取り発信元を確かめた。 「涼真? こんな時間に掛けてくる奴じゃないのに?」  訝しがりながら出ると、『おい、変な事はやめろよ』と、興奮した声でいきなり叱られた。 「変な事?」  詩衣那の呼び出しを知られたのか?  それとも、ループを思い出したのか?  心当たりがあり過ぎて、どれについて言われているのかピンとこない。 『とぼけるなよ』 「何について言っているのか、教えてくれないと」 『怪文書がうちの郵便受けに入っていた』 「怪文書?」  想像の斜め上を行った。それには、全く心当たりがない。 『星冬の所には来たか?』 「いや、入っていなかったと思う」  そんなものが入っていたら、家族で大騒ぎになっている。 『やっぱり。内容からみて星冬だろうと思った。他の人には、すでに確認済みだ。誰も怪文書のことを知らないといっていた。確認は星冬が最後。本当のことを言え』 「俺も知らないよ。俺がそんなことをする性格じゃないのは、涼真もよく知っているだろ」 『……それもそうか。星冬は、こんなことしないか』  涼真は、冷静になって考え直した。  疑いが晴れてホッとする。 『疑って悪かった』 「いいさ。で、その怪文書には何と書いてあったんだ?」 『今、画像を送る』  すぐに画像が送られてきた。  パッと目に入ったその文字を見た星冬は、芯から体が凍えてゾッとした。 『ハ イ ダ ン チ ニ イ ク ナ』  赤色の極太マーカーで便箋一杯に殴り書きされたそれは、まるで呪符のようにも見える。 『な、不気味だろ?』 「確かに。でも誰がこんなことを出来るんだ?」  コソコソと郵便受けに入れていく姿を想像しただけで、恐怖が増幅する。 『星冬が一人だけ反対したから、てっきり、これを書いたのはお前だと思い込んでいた』 「だから、俺じゃねえし」 『ともかく、週末の部活は部長権限で中止する』 「中止にするんだ」  あれだけ廃団地行きを強行しようとした涼真があっさりと翻した。  それだけ怪文書が不気味だったのだろう。  まさか、こんなことで自分の望みが叶うとは思わなかった。  でも、自分は出していない。  こんな姑息な手段など、たとえ上手くいったとしても、気分が悪くなるので使わない。 『これを書いた奴の狙い通りになるのは癪だが、ケチが付いたところにみんなを連れていけないからな。もう他のメンバーには連絡済みだ』 「取りやめは大英断だと思うよ」 『一体誰がこんなことをすると思う?』 「さあ? 俺にもサッパリ分からない」 『絶対に身内の誰かなんだよ。僕らが廃団地に行くことを知っているのは、僕らだけだからな」 「そうだな」  木平と早川合美のことを、涼真はまだ知らない。 『今夜は遅いから、犯人捜しはまたにする。じゃあな』 「ああ」  星冬は、涼真との電話を切った後、誰が怪文書を出したのか考えた。 「差出人には、ループの記憶がある」  そうでなければ、この発想は出てこない。 「季里乃? ……いや、彼女なら、まず俺に言うはず」  怪文書の目的は、怖がらせて廃団地行きを断念させること。そうなると、木平ではない。  この差出人は、阻止するなら部長の涼真だけを説得すればいいと知っている。だから、他の人には出していない。  早川合美なら、そんなことも知らなくて、誰彼構わずばら撒くだろう。  やはり、内情に精通している草平、羽沙、詩衣那のいずれかになる。 「俺がループを口にした時、何故か黙っていた。もしくは、後で気づいた。そのどちらか。あるいは、草平が木平の目的を知って、邪魔立てしているか」  それが一番ありがたいが、木平の怒りを買えば、ただではすまされない。 「とにかく、涼真がやっと中止にしてくれた。ようやく惨劇のループを防げる」  星冬は、少しだけ気が楽になった。
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