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「運命の流れが変わった。良かった、良かった。これで万事解決。廃団地に行かなければ、何も起きない。誰も殺されない」
さあ寝ようとベッドに入ったが、なかなか寝付けなかった。
まんじりともせず夜が更けていく。
薄暗い天井をぼうっと見上げていると、早川合美の顔が瞼に浮かんだ。
「待てよ? 早川合美はどうなるんだ?」
眠気がどこかに消えた。
「誰かが、彼女に部活動の中止を伝えるとは思えない。早川合美がそのことを知らなくて廃団地に行けば、今までと同様に殺されるだろう」
過去のループでは、早川合美の死に変化は見られなかった。つまり、多少の違いが生じても、必ず殺されている。
「早川合美は涼真のストーカー。それを知った木平が、こいつを利用してやろうと、草平に成りすまし、『涼真が来るから、廃団地で待ち伏せして二人で驚かそう』とでも上手い事そそのかして、あそこに連れ出したんだろう」
星冬は、ゴロンと横向きになった。
「犯人は木平だ。廃団地には、血も涙もない猟奇的殺人者の木平がいる。行けば、絶対に殺される。危険な場所へ自ら飛び込む愚かな真似はしない。彼女が殺されるのも、自らの行いが招いたようなもので自業自得。俺のせいじゃない。何も気にする必要はない。全ては、なるようになるしかないんだ」
窓の外には、黄色い満月が薄いカーテン越しに見える。柔らかな月明りが部屋に射し込む。
「怪文書の差出人の正体もどうでもいい。俺はもう死にたくない。自分の身が一番可愛い。それは間違っていないはずだ」
星冬は、助けに行かない自分を正当化して、全て忘れようとした。
目を瞑ってみるが、どうしても血まみれのクマの頭を思い出してしまう。
そいつが自分の足元でゴロゴロと転がる。同じシーンが、何度も、何度も、繰り返される。
「ハアー……」
深いため息が夜の闇に溶けていった。
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