第六部 最後のループ

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◇  早川合美は、不機嫌な顔で山道を木平と歩いていた。  ザッザッザッザ。二人分の足音が周囲に響いている。  草木が生い茂り、まるで獣道のようである。  そこを、高校の制服を着た早川合美と私服の木平が歩いている。 「ねえー、本当にこんなところへ彼が来るの?」 「ちゃんと来る」  二人は、廃団地に向かっていた。  早川合美は、数メートル歩くごとに同じ事を訊いた。木平の答えは同じだった。  答えを聞いた瞬間だけは早川合美も黙るのだが、すぐにまた訊いてくる。 「ねえー、本当に、こんなところへ彼が来るの?」 「涼真はちゃんと来る。そういう奴だから」  どれだけしつこくても、木平は怒り出さずに根気よく答えた。 「涼真に会いたいんだろ?」 「そうだけど」  もっと怪しめばいいのだが、涼真のことを持ち出されると、早川合美はわきが甘くなってつい話に乗ってしまうのだ。  涼真に会えるなら、どこにだって行くし、何だってするつもりだった。 「草が多くてジメジメする。ウソだったら、絶対に許さないからね。学校であんたの悪口を言いまくってやる。塚田草平。聞いている?」  早川合美は、木平のことを草平だと思い込んでいた。 「その時は、思う存分に僕の悪口を言っていいよ」 「あんた、変な奴」 「それでいい」 「乙崎詩衣那があんたを好きになるとは思えないけど」 「世の中に絶対はないのだ」 「へえー。もっと気が弱いと思っていた」  前向きなことに、早川合美は驚いた。 「ところで、なんで私には制服を指定しながら、自分は私服なのよ。ズルくない?」 「制服の方がインパクトがあるからさ。俺は私服を指定されている」 「もう一度聞くけど、本当に来るの? 騙していない?」 「来る。絶対に」  木平は、中止になったことを草平から聞かされていなかった。 「なんだかオカルト部って、変な部活よね。何も好きこのんで、虫の出そうな廃墟なんかに行くこともないのに。私だったら、スイーツ食べにカフェへ行くところよ」  木平といても落ち着かないのか、早川合美はよく喋った。  事の起こりは、早川合美が中庭を見下ろせる2F廊下の窓から、友人三人とバスケットボールに興じていた涼真を目で追っていた時に、木平から声を掛けられたことだった。 『涼真を好きなんだな』 『は? 気持ち悪い。あっちへいけ!』  早川合美は、攻撃的であった。  口を利くのも嫌そうに、手で追い払おうとしたが効果はなかった。 『まあ、聞いてくれ。俺は詩衣那が好きなんだ』 『そんな男子はたくさんいるから、別に驚かない。あんただけが特別じゃない』 『勿論、そんなことは百も承知だ。彼女は、現在涼真と付き合っている』 『ああ、忌々しい女』  詩衣那を思い出すと、憎くて憎くてたまらなくなる早川合美は、一層歪んだ顔で下唇を噛む。 『俺たち、二人が別れるように協力しないか?」 『あんたと?』  早川合美の目がギロリと光る。 『俺はオカルト部。二人の情報をたくさん持っている。君が協力してくれたら、別れさせられる。詩衣那と涼真がフリーになれば、俺たちそれぞれが、新しい彼氏彼女の候補になれる。Win-Winの関係じゃないか』  木平は、それからもちょいちょい涼真の情報をくれたので、あまり乗り気でなかった早川合美も、だんだんと信じるようになった。  そして、とうとう週末の部活動が廃団地での撮影会だと教えられた。  そこに先回りして、迫力ある映像が撮影できるようオカルト部を驚かそうと、そそのかされてやってきたのだった。
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