第六部 最後のループ

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「まだあ?」 「もう少しだ。ほら、見えてきた」  早川合美が歩き疲れてブーたれたところに、廃団地が現れた。  本当に何か出そうな雰囲気の廃墟である。 「ここに入るの?」 「そうだ」 「何も出ないよね」 「幽霊を信じているのか?」 「信じていないよ! 虫が嫌なだけ!」  早川合美は、強気な姿勢を崩さない。 「とにかく急ごう」  二人は、廃団地に入った。  そこは、何年も空気が動いてなくてどんよりしている。  薄暗い中を歩くにつれ、早川合美に不安が増してきた。 「どこまで行くの?」 「……」 「ちょっと、聞いている?」 「……」  木平は何も言わない。  先ほどから、木平が何の迷いもなく進んでいる。 「ねえ、もしかして、ここに来たことあるの?」 「……」 「さっきから黙っていないで、何か言いなさいよ!」  木平は、早川合美が怒り出しても無視している。  早川合美は、何を考えているのか分からない木平を、だんだんと不気味に感じてきた。  木平が急に足を止めた。 「どうしたの?」 「この辺でいいかな」 「え? 何が?」  木平は、背負っていたリュックを下に降ろすと、中からクマのぬいぐるみの頭部を取り出した。 「何よ、それ?」 「これを被って驚かすんだよ。可愛いクマちゃんが、自分たちの高校の制服で待ち構えていたら絶対に驚くだろ」 「え? それ、私がやるの?」  早川合美は、どこかに隠れるだけだと思っていた。 「俺は、オカルト部員として、みんなと行動して誘導する」 「えー! こんなところで一人で待つの?」 「廃団地前にもうすぐ集合なんだ。時間がないから早く被れよ」  半ば無理やり頭に被せた。 「ほとんど見えないんだけど」 「耳は聴こえるだろ。現場まで俺が連れて行く」 「まだ行くの?」  木平が早川合美の手を引っ張って誘導した。  例の部屋に入ると、ギロチンの台に座らせる。 「ここで待ってろ」 「これ、ガタガタして座りにくい」  木平の手作りだから、いろいろと不具合がある。 「横になって、ぬいぐるみの振りをするんだ」  木平は、早川合美の頭を押さえてうつ伏せ寝にした。 「変な事、しないでよ」  勝手な事ばかりする木平に対して、さすがに早川合美も腹が立ってきた。 「絶対に被り物を取るなよ」 「これで、何をすればいいの?」 「最初はじっとしていて、声がしたら起き上がって驚かす」 「待ってる間が怖いんだけど」 「我慢しろ。これでモキュメンタリーちっくな映像が撮れる。目的は部員勧誘。迫力ある映像になれば大成功だ」 「ちょっと待ってよ。私の目的はそっちじゃないんだけど。涼真君とあの女を別れさせることなのに、忘れたの?」 「忘れていないさ。涼真が叫んで逃げ出したら、幻滅して百年の恋も一気に冷めるだろう」 「逆効果で、却って二人の仲が深まったらどうしてくれるの?」 「だから、そこは俺がうまく誘導する」 「自信ある?」 「俺だって、二人を別れさせたい。俺たちは、Win-Winの関係だ」  Win-Winという言葉には、謎の説得力があった。 「さ、顔を下に向けて、ダラーンとして全身の力を抜いて。クマのぬいぐるみの振りをするんだ」  木平は、力を抜いた早川合美の頭を動かして、ベンチからいい位置にはみ出させると、木の枠で首を固定した。 「何したの?」 「ジッとしろ! 動くな!」 「え……、う、うん。分かった」  急に語気を荒げた木平の迫力に、早川合美は委縮して大人しくした。  柱のフックには、先端部分を輪にしたロープを引っ掛けてある。  ピンと張られたロープの先には、ギロチンの刃がついている。  ロープを緩めると勢いよく落ちてきて、重みで首を撥ねる仕掛けだ。  木平は、ロープの輪をフックから外すと、すぐ落ちないように掴んだ。 (落下まで、3・2・1……)  心の中でカウントダウンをとった。
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