第六部 最後のループ

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 その時、雄叫びを上げて星冬が飛び込んできた。 「ウォォォォ!」  勢いつけて木平に体当たりをかます。  不意を突かれた木平は、吹っ飛ばされてロープを手放した。 「ウオ!」  星冬は、咄嗟にロープを掴むと、落下するギロチンの刃を途中で止めた。 「ふうー、間に合ってよかった」  星冬は、冷や汗を拭いた。 「え? 何? 何?」  視界を塞がれている早川合美は、何が起こっているのか分からず戸惑っている。  それは今朝のことだった。  星冬は、起きるとすぐ廃団地に向けて家を飛び出した。 「クソクソクソクソ! どうして足が向かっちまうんだよ! 俺は馬鹿だ!」  星冬は、己を呪った。  行けば殺されると分かっているのに、どうしても早川合美を見殺しに出来ない。 「発見した時の早川合美の体は、ほんのり温かかった。集合時間の少し前ぐらいに死んでいるはずだ。今から行けばまだ間に合う!」  だれも巻き込みたくなくて、草平にも涼真にも内緒だった。  廃団地に着くと、ギロチン部屋にまっすぐに向かった。そして、間一髪、阻止に成功したのだ。  星冬は、掴んだロープを柱に縛り付けて固定すると、早川合美の首から拘束具を外して救い出した。 「もう大丈夫だ。その被り物を外していいよ」 「外していいの?」  早川合美は、クマの被り物を外した。  視界がはっきりするまでしばらく瞬きをしていたが、目の前にいたのが星冬だと知ると吃驚した。 「昴星冬! もう来ちゃったの? 潜んで驚かす予定だったのに!」 「やっぱりそういうことか。こいつに上手い事言い(くる)められたんだな。お前は死ぬところだったんだぞ」 「私が? ウソォ」 「上を見てみろ」  言われた早川合美は、上を見てギロチンの刃に気付いた。 「え? 私が寝かされていたのってギロチン? どうして塚田草平がそんなことをするの?」  事実を突きつけられても半信半疑でいる。 「こいつは草平じゃない。双子の弟、木平だ」 「双子⁉ 草平じゃなくて、木平⁉」  早川合美は、次々と押し寄せる情報を受け止めきれず、目を回した。 「とにかく、命が助かって良かった」 「昴星冬……。私の無事をそんなに喜んでくれるんだ……」  自分を助けて喜んでいる星冬を目の前で見た早川合美は、不思議な気持ちになった。  しかし、事態はまだ終わっていなかった。 「クッソ! 俺の完璧な計画を邪魔しやがって!」  木平は、怒りながらゆっくり立ち上がると、隠し持っていたサバイバルナイフを二人に向けて、ニタアと冷酷に笑った。 「二人まとめて殺してやる」 「ヒヤアア!」  木平の本性と殺意を知った早川合美は、青ざめて甲高い悲鳴をあげた。 (しまった! こっちには対抗できる武器がない!)  木平が凶器を持っていることぐらい簡単に想像出来たはずなのに、ただ間に合えと、何も考えず闇雲に飛び出してきた星冬は完全に丸腰である。 (早川合美を連れて逃げきるのは無理だ)  すぐ追いつかれて、あのナイフで滅多刺しにされるだろう。 (やっぱり俺は馬鹿で間抜けだ。結局二人共殺されるんだ)  今更だが、大いに後悔した。
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