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その時、雄叫びを上げて星冬が飛び込んできた。
「ウォォォォ!」
勢いつけて木平に体当たりをかます。
不意を突かれた木平は、吹っ飛ばされてロープを手放した。
「ウオ!」
星冬は、咄嗟にロープを掴むと、落下するギロチンの刃を途中で止めた。
「ふうー、間に合ってよかった」
星冬は、冷や汗を拭いた。
「え? 何? 何?」
視界を塞がれている早川合美は、何が起こっているのか分からず戸惑っている。
それは今朝のことだった。
星冬は、起きるとすぐ廃団地に向けて家を飛び出した。
「クソクソクソクソ! どうして足が向かっちまうんだよ! 俺は馬鹿だ!」
星冬は、己を呪った。
行けば殺されると分かっているのに、どうしても早川合美を見殺しに出来ない。
「発見した時の早川合美の体は、ほんのり温かかった。集合時間の少し前ぐらいに死んでいるはずだ。今から行けばまだ間に合う!」
だれも巻き込みたくなくて、草平にも涼真にも内緒だった。
廃団地に着くと、ギロチン部屋にまっすぐに向かった。そして、間一髪、阻止に成功したのだ。
星冬は、掴んだロープを柱に縛り付けて固定すると、早川合美の首から拘束具を外して救い出した。
「もう大丈夫だ。その被り物を外していいよ」
「外していいの?」
早川合美は、クマの被り物を外した。
視界がはっきりするまでしばらく瞬きをしていたが、目の前にいたのが星冬だと知ると吃驚した。
「昴星冬! もう来ちゃったの? 潜んで驚かす予定だったのに!」
「やっぱりそういうことか。こいつに上手い事言い包められたんだな。お前は死ぬところだったんだぞ」
「私が? ウソォ」
「上を見てみろ」
言われた早川合美は、上を見てギロチンの刃に気付いた。
「え? 私が寝かされていたのってギロチン? どうして塚田草平がそんなことをするの?」
事実を突きつけられても半信半疑でいる。
「こいつは草平じゃない。双子の弟、木平だ」
「双子⁉ 草平じゃなくて、木平⁉」
早川合美は、次々と押し寄せる情報を受け止めきれず、目を回した。
「とにかく、命が助かって良かった」
「昴星冬……。私の無事をそんなに喜んでくれるんだ……」
自分を助けて喜んでいる星冬を目の前で見た早川合美は、不思議な気持ちになった。
しかし、事態はまだ終わっていなかった。
「クッソ! 俺の完璧な計画を邪魔しやがって!」
木平は、怒りながらゆっくり立ち上がると、隠し持っていたサバイバルナイフを二人に向けて、ニタアと冷酷に笑った。
「二人まとめて殺してやる」
「ヒヤアア!」
木平の本性と殺意を知った早川合美は、青ざめて甲高い悲鳴をあげた。
(しまった! こっちには対抗できる武器がない!)
木平が凶器を持っていることぐらい簡単に想像出来たはずなのに、ただ間に合えと、何も考えず闇雲に飛び出してきた星冬は完全に丸腰である。
(早川合美を連れて逃げきるのは無理だ)
すぐ追いつかれて、あのナイフで滅多刺しにされるだろう。
(やっぱり俺は馬鹿で間抜けだ。結局二人共殺されるんだ)
今更だが、大いに後悔した。
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