第六部 最後のループ

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 三人が声のした方を振り向くと、今度は草平がいる。 「草平! おま、なんでここに?」  星冬は、草平と木平が揃ってしまうと、まずいことが起きるような気がして焦った。 「怪文書で部活が中止になっただろ? だけど、木平が朝早くから出て行ったから、なんか嫌な予感がして来てみたんだ。いろいろあったようだね」  草平は、ボコボコにされて倒れている木平を見下ろした。 「あ、いや、これは……、違うんだ……。えーと……。その……」  誤解されると感じた星冬がいくら説明しても、どうみても一方的に叩きのめしたようにしか見えない。  しかも、羽沙じゃなくて星冬がやったと思われるのが自然である。かといって、羽沙がやったと言うのも告げ口みたいになる。 「原因は木平で、返り討ちにあったんだろ。何かの迷惑を君たちに掛けたんだな」 「え? 分かってくれるのか?」 「こいつは生粋の悪魔。今までも大切な人たちを傷つけてきた」  早川合美が叫んだ。 「殺されるところだったのよ! それを二人が助けてくれたんだから!」 「それは申し訳なかった。昔からそういう奴なんだ。僕は血のつながりがある。だから、僕がこいつの責任を取る」 「こいつが何をしたかったのか、知っているのか?」 「羽沙を狙っていたんだろ? その中で、早川合美さんを巻き込んだってところか」 「知っていたのか?」 「木平が羽沙に異常な関心を持っていたことは、それとなく気づいていた。それなのに、僕は羽沙に伝えなかった。迷惑を掛けて悪かったと思っている」  千里が、「こいつはあんたを殺して、人生そのものを乗っ取るつもりだ」と、教えた。  それを聞いた草平は、大いにショックを受けて顔面蒼白となった。  星冬は、早々に殺されてきた草平の過去を思い出して、(血も涙もないと思っていたが、そういうことだったのか)と、とても納得した。 「やはり、このままにはしておけないようだ」 「でも、どうやって責任を取る気だ? 一生、悪さしないよう見張っていくつもりか? それは無理だろ。こいつの性根が変わるとも思えない」  草平は、深く考える様子を見せている。 「僕にどこまで出来るか分からないけど、木平と二人で話し合う。三人ともこのまま帰ってくれないか。木平は僕が連れて帰る。そうしないと、目立って怪しまれてしまうだろ。僕一人なら、何とか誤魔化せる」  木平の顔は、赤く腫れあがって青タンだらけ。服もボロボロで、暴行を受けたことは一目瞭然だ。木平を連れていたら、誰かに怪しまれてしまう。  草平の言葉を信じるかどうか、三人で話し合った。 「どうする?」 「私たちには何も出来ない。双子なんだから、任せていいんじゃない?」 「二度と近づかないって約束してくれたら、私はここで起きた事を誰にも言わない。ギロチンされそうになったことも不問にする」  草平の言葉を信じ切れない早川合美は、木平に後から逆恨みされるのが怖くて、無かったことにしたかった。  星冬は、草平に念を押した。 「本当に、説得するんだな」 「勿論。僕が全責任を持って、皆に近づかないよう説得する。羽沙のことも諦めるように言う」  初めて草平が頼もしく見えた。 「そう言う事なら、任せる。約束だぞ」 「ああ」  千里も納得して、草平に任せることにした。 「このことは、ここにいる俺たちだけの秘密にしよう」  4人は、誰にも言わないと誓った。  廃団地に草平と木平を残して、三人は外に出た。  空気が清々しい。太陽がもう真上まで来ている。  外は暖かいのに、早川合美はまだ震えている。 「本当に、これで終わりなのかな」 「今は草平を信じるしかない」 「学校で顔を合せるのが怖い。だって、それが本物の塚田草平なのか分からないよね。また入れ替わっているかもしれないと思うと……」 「何かあったら、すぐ俺に言いに来い」 「いいの?」 「ああ」  事情を知っているのはこの三人だけで、千里はいつも現れるわけじゃないとなると、必然的に星冬だけとなる。 「代わりの条件と言っては何だが、涼真を諦めて、むやみに近づかないでやってくれないか」 「……分かった」  そのせいで殺されそうになったことがショックだった早川合美は、二度とストーカーしないと約束した。  家に帰った星冬は、涼真に連絡しようか悩んだが、結局止めた。  ループに気付いてなければ、何も起きていないってことで、そんな人に今日の出来事を正確に伝えるのはとても困難だからだ。  早川合美についても、わざわざ言わなくても勝手に気づくだろう。変に意識させない方がいいこともある。 「とにかく、俺は廃団地から生きて出られたんだ! ループもしていない!」  改めて喜びをかみしめた。
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