第六部 最後のループ

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 草平たちの失踪から10年後、5人はそれぞれの道を歩いていた。  星冬は、髪を黒くして普通の会社員になった。  涼真は、自分探しの海外放浪に出ている。  詩衣那は、アイドルになった。今では、テレビで観ない日がないぐらいの売れっ子である。今日も元気に歌番組で歌っている。  季里乃は、地方の大学に進学したあと院に進み、そのまま研究生として研究に励んでいる。  羽沙は、高校卒業後から連絡が取れなくなって、誰も消息を知らなくなった。多分、どこかで元気に生きていることだろう。  高校の時に廃団地で生きることを諦めなかったからこそ、それぞれが自分の人生を謳歌している。  そうなったのは、自分が諦めずに頑張ったから。そう思うだけで、星冬は誇らしげな気分になる。  たった一つ気がかりなことは、草平であった。  ある夜、仕事から帰ってきてテレビを点けた。流し見しながらネクタイを外していると、気になるニュースが流れてきた。 『――再開発計画が立ち上がり、長らく放置されていた廃団地の解体が決定して業者が中に入ったところ、若い男性二人の死体が発見されました』  星冬は、手を止めてテレビに見入った。あの廃団地が映し出されている。 「あそこだ! 若い男性二人の死体? まさか⁉」  10年前に捜しに入った時に、二人はいなかったはずなのに。 『一人の死体には激しい暴行を受けた傷があり、首元を鋭利な刃物で切られていました。これが致命傷となったもようです。近くに落ちていたサバイバルナイフが凶器とみられています。もう一人の死体は、なぜか部屋にギロチンがあり、それで首を切り落とされたことが死因と考えられます。警察は詳しい身元を確認中です』  ギロチンもあるから、間違いない。 「え? なんだか、おかしくないか? 二人が消えたのは10年も前のこと。二人にあの後何があったのかは分からないが、すぐに亡くなっていたとしたら、とっくに白骨化しているはず。今のニュースでは、まるで最近亡くなったかのような報道だった」  星冬は、真偽を確かめるため警察に行くと、草平と木平の話をした。  いなくなったのが10年前なら、当然別人であると最初は信じて貰えなかったが、その後のDNA鑑定によって、草平と木平の双子であることが確認された。  現場の状況から、草平が木平を殺し、ギロチンに自分の首を掛けて、自ら刃を落とす紐を緩めて首を切り落として亡くなったのだろうという結論となった。  不思議なことに、10年も経っているはずの二人の死体は、着衣も失踪当時のまま、腐ってもいなくて、まるで時が止まったかのようであったという。 「10年もの間、二人は死んでは生き返るループを繰り返していたんだろうか?」  もし解体業者が入らなければ、今でもあそこでループしていたかもしれない。  草平と木平の遺体は遺族に引き取られ、簡単な葬儀のあと火葬が執り行われた。  星冬は、最後まで見届けようと、火葬場にも付き添い、納骨まで見届けた。  二人の死体が生き返ることはなかった。これで、本当にループが終わったんだと思った。  葬儀が終わると、涼真に電話で報告した。 「もしもし、涼真? 草平が見つかったよ。死体だったけど。発見場所は、あの廃団地だった。草平の遺骨は埋葬された」 『そうか。見つかって良かった。ずっと気になっていたんだ。あの頃って、いつも悪夢にうなされていたみたいな、曖昧な記憶しかないんだ。でも、これで区切りがついたような気がするよ』  初めて、涼真があの頃の心境を語った。  あれを悪夢と思っているらしい。 「次はいつ日本に帰ってくる? 草平の墓参りに行かないか? ……ああ、楽しみにしている。それまで元気でいろよ。じゃあな」  涼真との電話を終えると、季里乃、そして、どうせ来ないだろうけど一応詩衣那にも、こちらは音声メッセージで伝えた。  テレビがニュースの時間になる。 『――次は廃団地変死体事件の続報です。捜査の結果、双子による心中で、第三者の介入による事件性はないと見られています』  テレビには、取り壊される廃団地の映像が流れていた。                           スイッチ 終わり
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