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第二部 廃墟探索
羽沙が集合場所の廃団地前に着いた時、詩衣那以外のメンバーはすでに来ていた。涼真は、廃団地の全景をスマホで撮影していて、他は思い思いに待っている。
季里乃に尋ねた。
「あとは詩衣那だけ?」
「うん。全員集まったら、中に入るって」
羽沙は、さりげなく星冬を見た。星冬は撮影に余念のない涼真に話しかけている。
「帰りにラーメン食おうよ」
「いいね。どこに行く?」
「波間之家は?」
詩衣那が苦しんでいるのに、呑気な会話を交わしている。そのことに羽沙は腹が立つ。
(心配しないの? 誰のせいで風邪を引いて休んだと思っているのよ! 断るにしても、せめてちゃんと行ってあげれば、風邪を引かなかったのに!)
「羽沙、怖い顔して、どうかしたの?」
季里乃に言われてハッと気づいた。
「ああ、何でもない。そんなに怖い顔になっていた?」
「うん。星冬を睨んでいたように見えたけど」
季里乃は、詩衣那と星冬のことを知らない。
「そうじゃない。偶然よ。寒くてちょっと顔がこわばっただけ」
羽沙は、顔のマッサージをして無理やり笑顔を作った。
草平は、感情のない顔でボーッと立って、皆の会話を聞いている。
「遅くなってごめん」
ようやく、詩衣那が現れた。いつもと変わらぬ様子で安心した。
「詩衣那、風邪は治った?」
「うん、たくさん休んじゃったけど、もう大丈夫」
「全員揃ったので、改めて今日の段取りを確認しよう」
涼真が説明を始めた。
「全員、スマホで撮影しながら進む。いろんな場所を協力して撮影してくれ。僕が先頭を歩いてルートを決めるが、離れないようについてくること。勝手な行動は慎むように。必ず集団行動で……」
詩衣那は、星冬の方を見ないようにしている。星冬も詩衣那を見ないで、涼真に意識を集中させている。
草平は、そんな二人に気付いて交互に観察した。
二人の間に流れる空気がギスギスしている。
(確か、あの子は部長と付き合っていたはずだが……。星冬に乗り換えようとして失敗したってところか。羽沙はそのことで星冬に怒っているみたいだな。ふーん。なかなか面白い)
人間関係の観察は、草平の趣味の一つだった。
季里乃が、「先頭は私に歩かせて!」と、主張した。
彼女がこの中で一番オカルト好きで、さらに、全く恐怖を感じない体質だといつも自慢している。
「そんなに言うなら、君に先頭を任せる」
「やった! 皆、私に付いてきて!」
張り切って歩き出すと、後ろをゾロゾロと金魚のフンのように皆がついて行った。
季里乃以外のメンバーは、オカルト部と言えど多少の恐怖心はある。季里乃に任せておけば安心だと誰もが考えた。
季里乃は、実況しながら動画を撮影した。
「我々は、これから昭和から放置されている廃団地に突入します。ここでは事件や事故など、いろいろな黒い話があります。また、誰もいないはずの部屋から物音がしたという噂もあります。果たして、我々はこの廃団地の闇に触れ、心霊現象に出くわすことが出来るのでしょうか?」
「ちょっと待て!」
涼真が止めた。
「何?」
涼真は、映像監督のように指導した。
「それじゃあ、まるで何とか探検隊だ。元気が良すぎる。もっとおどろおどろしい雰囲気の映像にしたいから、余計な実況は入れなくていい。静かに撮影しないと、もしラップ音があったときに拾えないだろ」
「はあ……」
本気で心霊映像の撮影成功を狙っている涼真の熱に圧倒されて、季里乃は渋々従った。
それからは、全員無言で進んだ。
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