瑪瑙可南子の失せ物探し

3/40
前へ
/40ページ
次へ
幼いころから家族や親族と折り合いが悪く、若くして家を出て以来、何十年も音信不通だったそうだ。 そんな彼が、今や私の唯一の肉親だ。 叔父様は都内で小さな探偵事務所を営んでいる。 正直、あまり儲かってはいない。 それでも悠々自適な暮らしができているのは、私たちのもつ遺産のおかげだろう。 その点についてだけは、二人とも故人に感謝している。 叔父様は昨年まで、事務所とは別に、高尾に自宅を構えていた。 上京した私が、最初に住むことになった家だ。 私が気に入っていた、小さいけれど可愛らしいその家は、残念なことに今はもうない。 叔父様は、五年ほど前に、妻を亡くしている。 以来、その家で一人で暮らしていたわけだが、突然私を引き取ることになった。 家に誰かがいる、という現実が、愛する妻がいないという実感を呼び起こしたと、叔父様は私に告げた。 そしてついに昨年、思い出が多くて辛いからという理由で、高尾の家を手放してしまった。 その気持ちは理解出来かねたし、高尾の家が気に入っていたので残念だったが、私に発言権がないことは理解していた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加