瑪瑙可南子の失せ物探し

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もう入ることもないだろうと思っていた檜の浴槽に体を沈め、深呼吸を数回。 そして、目の前に置いたフルーツの山に手を伸ばした。 オレンジ、グレープフルーツ、パイナップル、キウイ、いちご、さくらんぼ、桃、ライチ…… どれもこれも、体に染み込んでいく。 柔らかな湯、瑞々しい果物、なんという贅沢! 温泉などと馬鹿にしていた数日前の己を叱り飛ばしたい。 川面を渡る風が、火照った頬を冷やしてくれる。 ふと対岸を見ると、木々の周りをカラスが飛び回っていた。 また、巣材を探しているのだろう。 子育て、頑張れよ。 *** 「本当にありがとうございました」 女将が深々と頭を下げた。 これで何度めだろう。 「そんなに恐縮しないでください」 叔父様の笑顔は、相変わらずだ。 旅館の玄関先、荷物はすでにタクシーに積み込まれている。 「むしろこんな時間まで居させていただいて、恐縮です」 既に日は傾き始めていた。 これでは、家に着く頃には真っ暗だろう。 「とてもいいお宿でした。姪も気に入ったようだ」 「また来ます」 叔父様が言い終わる前に即答していた。
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