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「ありがとうございました。秋の紅葉などもとても美しいので、ぜひまたお越しください」
女将はにっこりと笑うと、再度、深々と頭を下げた。
それを合図のように、私たちはタクシーに乗り込む。
お見送りの人々を気にも留めず、車は速度をあげた。
「よかったね、可南子くん」
「はい、とても」
「……そう素直だと、気味が悪いな」
叔父様はおどけたように笑う。
失礼な。
私は正直なのだ。
いいものはいいと言う。
「あ」
タクシーが門扉をすり抜けるその時。
「ん? どうした?」
「いえ、あそこに……」
門扉の陰の茂みに紛れるように、カメラを構えた人影があった。
それが今朝の青年だということは、すぐにわかった。
「ああ、彼だね」
「あんなところで、何をしてたんでしょうか」
「おそらく、取材だろうね」
私の疑問に、叔父様はあっさりと答える。
「……取材」
「彼、記者だろう。おそらく、タブロイド誌の」
「はぁ」
「この宿、政治家などもよく利用するようだし」
「とくダネ狙い、というやつですか」
「おそらく、そうでしょうねぇ!」
運転手が、突然話に入ってきた。
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