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「いやいや、迷惑してるんですよ、あいつらには」
「そうですか、それはそれは」
叔父様と運転手が話し込んでいる間に、もう一度振り返って見る。
けれどそこには木々とうねる山道が続くだけ。
旅館も、もちろん青年の影すらも、見ることはできなかった。
車がカーブで大きく揺れ、体が傾ぐ。
タクシーは軽やかに、山道を下って行く。
規則的な揺れが心地よく、私は目を閉じた。
ふと脳裏に、木々の隙間から覗く太陽の光と、背の高い影が浮かんだ。
「頑張れよ、青年」
誰にともなくつぶやいて、私は眠ることにした。
この時の私は、後に彼と親しい関係になるとなどとは、露程も思っていなかった。
***
帰りのロマンスカーを満喫し、駅でお弁当を購入してから、叔父様と私は自宅に向かった。
案の定、もう夜も更けた時間だ。
「ただいま」
迎える人など誰もいない空間に、叔父様は必ず声をかける。
いつものことだ。
たった一日空けただけだというのに、慣れ親しんだ部屋は、他人のような顔をしている。
「疲れただろう。荷物は明日でいいよ、休みなさい」
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