飛龍のゲーム大会

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飛龍のゲーム大会

 本格的な夏が目の前に迫っているアミューズメントパーク竜宮では観光客用のプランの確認などでそこそこ忙しかった。  前回、タニが死ぬ気で頑張ったCMは大々的に様々な神々へと広まり、今年の竜宮の評価もまあまあ高そうだった。  今日は竜宮の整備なのでパーク自体はお休みとなっている。観光客もおらず、龍神達はのんびりとしていた。  タニも暇だったのでアトラクションを覚えるためパーク内をウロウロと動いていた。  何をするのか謎のアトラクション、滝壺ライダーの付近でリュウともう一神見たことがない女の龍神が何やら楽しそうにスイカを食べていた。女の龍神はなんだかとてもグラマーだった。胸が大きくてほどよい肉付きだ。袖がなく、丈がやたらと短い着物を着ていた。  「お?タニ!ちょうど良かった!お前もスイカ食え!おら!来い!」  リュウがタニを見つけ、ニコニコ笑いながらガラ悪く声をかけてきた。  「え?あ、あの……。」  「いいから、ほら!」  タニは半ば強引にリュウに引っ張られスイカが乗っている木箱まで連れていかれた。  タニはリュウの隣にいた赤い髪の怖そうな女の龍神をちらりと見上げた。 近くで滝壺ライダーだと思われるアトラクション用のプールの水音を聞きながらタニはごくりとつばを飲み込む。  女の龍神はスイカを咀嚼しながらタニを見返してきた。鋭い瞳にタニは震え上がる。  「おらよ!食え。そこの滝壺ライダーの水で冷やしたんだぜ。ひひひ。」  異様な空気の中、リュウが笑顔で切られたスイカをタニの手に乗せた。  「あ……ありがとうございます……。いただきます。」  タニは動揺しながらとりあえず頂いたスイカをパクッと食べた。  「……!」  食べた瞬間、タニが涙目で飛び上がった。  「やーい!引っかかった!引っかかった!そのスイカはハバネロパウダーがかかってんだぜぃ!」  リュウはタニの反応を楽しそうに眺めながらいたずらっ子のような笑みを向けた。  「うえええん……辛いよぉ……。舌がびりびりするよぉ……。」  タニはおいしいスイカを期待していたので子供の様にしくしくと泣き始めた。  「うっ……ええ?お前、マジ泣きかよ……。ああ、悪かった。ごめん。ごめんな。えっと……その……。」  ちょっとからかうつもりが大事になってしまい、リュウは慌てた。  「ん……。」  その時、赤い髪の女龍神がぶっきらぼうにタニに自分が食べていたスイカを渡してきた。  「え……?あ、ありがとうございます……。」  「それもらうから。」  赤い髪の女龍神はタニが持っていたハバネロ入りスイカを乱暴に奪い取った。  そしてそのハバネロ入りスイカをリュウに投げつけるように押し付けた。  「う……飛龍(ひりゅう)……これを俺様に……。」  「てめぇが食え。全部な。この馬鹿男。」  リュウに飛龍と呼ばれた女龍神は鋭い声で言い放った。  「んん……わーったよ!俺様が食う!食うから睨むな!怖えよ!」  なんだか異様な神力がする飛龍にリュウは怯え、小さくなりながらハバネロ入りスイカをしぶしぶ食べ始めた。  「うげぇ……辛れぇ……。た……タニ、わりぃな……ちょっとかけすぎたぜ……。」  「りゅ、リュウ先輩……顔色が……。」  リュウの顔色がどんどん蒼白になっていくのでタニは心配になって声をかけた。  「いーんだよ。ほっとけ。」  飛龍は乱暴にタニに言った。  「は、はあ……。」  タニは飛龍に怯えながらもとりあえず頷いた。  「あ、そうだ!あんた、これからあたしのアトラクションでデモプレイしてくれないか?いいだろ?な?」  飛龍は突然笑顔になると狂気的な笑みでタニに詰め寄ってきた。  「ひぃい!ざ、残念ですけどっ……」  なんだかいやな予感がしたタニは断ろうと口を開いたが飛龍のごり押しにより黙らされた。  「いいだろ?え?そこのツアコンも連れてきな!なーに、サクッとプレイしてくれりゃあいいんだ。オッケー?いいだろ?ええ?」  「は、はい……。」  「よし!んじゃあ、竜宮バーチャル施設の二階で待ってんぜ!じゃ。」  飛龍は強引にタニに約束を取り付けると上機嫌で去っていった。  「ど……どうしよう……なんかヤバい感じがむんむんしてたけど……。」  タニは慌てて隣で苦しんでいるリュウに目を向けた。  「う……うう……く、くそう……辛さで声がでねぇうちに……妙な約束を取り付けやがって……あのくそアマ……。ゲホゲホ……。」  ちゃんとスイカを全部食べたリュウが苦しそうに咳こみながら去っていく飛龍を睨みつけた。  「あの……大丈夫ですか?」  「……馬鹿野郎!なんでちゃんと断らなかったんだよ!あいつはかなりクレイジーなんだぞ!お前じゃ確実に死ぬ!」  「しっ……!?」  リュウはスイカを飲み込んでタニの頭を乱暴に掴む。タニはリュウの言葉で顔色を青くした。  「っち……こうなったら死んだ気で行くぜ!」  「死んだ気で行くんですか!?死ぬ気じゃなくてもう死んでいるんですか!」  リュウの言葉に何か起こるのかわからなかったがタニはすでに気絶しそうだった。  スイカを食べたタニとリュウは足取り重く、竜宮のバーチャルアトラクションが固まっている広い建物内に向かった。このバーチャルアトラクションの建物はかなり近未来的に作られており、ガラス張りの六角形のビルだった。そのビルから渡り廊下で宴会席と宿泊施設へと行ける。  タニとリュウはビル内へと入りロビーを抜けて二階へのエスカレーターに乗った。  「あ、あの……本当に私じゃ死んじゃうんですか?」  タニがリュウのげっそりとした顔を眺めながら恐る恐る尋ねた。  「間違いなく死ぬな。ま、俺様も一緒に死んでやるから竜宮の伝説になろうぜ!」  「そ、そんなのいやですよ!」  タニが涙目で叫んだ時、エスカレーターのドアがバッと開いた。  「……っ!」  エスカレーターの向こう側はコロッセウムのような闘技場だった。  「よう!待ってたぜ!難易度は最上級にしといた!ははっ!デモプレイだ!楽しもうぜぃ!」  闘技場の真ん中に狂気的に笑っている飛龍が立っていた。  「何がデモプレイだよ……。本当だったらお前のアトラクションなんてツアーに絶対に入れねぇんだがなぜか人気なんだよな……。」  リュウが死んだ顔で頭を抱える。飛龍は楽しそうに指を鳴らした。  刹那、タニ達の頭に緑色のバーがバーチャルで浮かんだ。  「はーい、ゲームの説明するぜぃ!この緑のバーはヒットポイント!HPだ!これがなくなったら終わりな。よし!じゃあ始めるぜ!」  「はやっ!」  飛龍があっという間にゲームの説明を終わらせたのでタニは思わず声を上げてしまった。  「ぼさっとしている場合じゃないぜ。」  飛龍はもうその場におらず、タニのすぐ後ろから声をかけてきた。  「え……っ!」  タニが振り返ろうとした刹那、リュウがタニの手を引き、空高く飛んだ。  「きゃあっ!」  リュウがタニを抱きかかえつつ、闘技場の真ん中あたりに着地した。  「な、何?なんですか?」  「お前、戦闘の経験は?」  リュウがタニを下ろし、早口で聞いてきた。  「え?戦闘?」  「戦闘の経験はあるかって聞いてんだ!あるのか?ねぇのか?早く言え!」  「な、ないですっ!」  「まじかよ……。」  リュウが舌打ちしながら再びタニを引っ張る。タニは乱暴にリュウに引っ張られた。  「な、何ですか?さっきから!」  「お前、何にも見えてねぇのか。」  風だけがタニの横をかすめて行った。休む暇もなく、今度はタニの下から風が吹いた。今度ははっきりと風が見えた。飛龍が狂気的な笑みを浮かべながら拳を突き上げてきていた。  「……っ!」  「ボケっとしてんじゃねぇよ!」  リュウがタニを引っ張り飛龍の攻撃をかわす。  飛龍はまたその場から消えた。するとすぐに辺りに沢山の竜巻が発生した。  「え……?なんですか?これ竜巻?」  「あいつが起こした竜巻だ。あいつ、風の神でもあるからな!」  リュウが叫んだ刹那、タニが竜巻にさらわれて飛ばされた。  「きゃあああ!」  「ゲッ……タニ!」  タニが空高く舞う。空中で動きが取れないタニに飛龍がバレーボールのスパイクのように叩きつけようとしていた。  「……!」  咄嗟にリュウが空を飛んでタニを庇う。飛龍の手はリュウの背中に当たり、リュウは勢いよく地面にたたきつけられた。  「ぐあっ……!」  リュウは痛みに顔をしかめながら立ち上がり、落ちてくるタニを受け止めようとしたがバレーボールのトスをしてしまった。  「げっ……やべっ……反射でバレーボールやっちまった……。あいつボールみてぇだから……。」  「いやあっ!」  タニは再び空へと舞った。飛龍はリュウから上がったトスに笑いながらスパイクの構えを取った。  「私はボールじゃありません~……。」  「あー……もう……。」  リュウは頭を抱えながら再び飛び上がった。飛龍の掌打を手に持った柄杓で弾く。しかし、飛龍はそのままリュウの腹に回し蹴りを食らわせた。  「がっ……!」  リュウは勢いよく飛ばされ、闘技場の壁に思い切り激突した。闘技場の壁が壊れるほどの衝撃だった。  タニはそのままダイレクトに地面に落ち、怯えた表情で空を浮いている飛龍を仰いだ。  「す、すごい衝撃……リュウ先輩が死んじゃった!」  「勝手に殺すんじゃねぇ!」  リュウはボロボロの体でタニのそばまで寄りタニの手を掴み飛龍から離れた。  「リュウ先輩……なんで生きているんですか!」  「お前は俺様を殺したいのかよ……。これくらいじゃあ死なねぇが……そこそこのダメージだぜ……。あのアマ……なかなか本気だな。」  「私なら死にます!絶対死にます!」  「偉そうに言うんじゃねぇー!」  なぜか自信満々なタニにリュウは必死な顔で叫んだ。  「よし……これはゲームだ。いいか、一発食らってHPをゼロにして終わらせよう!……って、お前、なんでムンクの叫びのような顔をしてんだ。」  リュウがそう提案したがタニはぶんぶんと頭を振った。  「痛いのは嫌です。」  「このままじゃ痛いじゃなくて遺体になっちまうぞ!あー、何俺様、うまい事言ってんだ!じゃなくて、おら、一緒に行けば大丈夫だって!」  「なんですか!赤信号をみんなで渡れば怖くないみたいな感じ!」  リュウの言葉にタニはしくしく泣き始めた。  「ああああ!泣くな泣くな!わーったよ……俺様がなんとかするぜ……。」  リュウはため息をつくとがらりと雰囲気を変えた。リュウの体から荒々しい神力があふれ出る。  「りゅ……リュウ先輩?」  「俺様、あんま女をボコりたくねぇんだよな……。」  リュウは呆れた顔をしながら飛龍に向かい飛んでいった。  「リュウ先輩って本当はすごく強……」  タニがときめきそうになった刹那、リュウがさらにボロボロになって戻ってきた。  「……ダメだ……あいつ強い……。」  「……くなかったですね。」  「うるせぇ!本気になれねぇだけだぜ……。そういやあ、あいつに勝ったのは四神がかりで攻めたあの時だけだったぜ……。あんときは……シャウとカメと……時神のアヤちゃんがいたなあ……。俺様とタニじゃあ勝てねぇわ……。」  リュウはため息をついた。  よく見るとリュウの頭に浮いている緑のバーはもうほとんどない。タニは自分が危機的状態な事に気が付いた。  「りゅ……リュウ先輩のHPがなくなったら私が一神で飛龍さんと戦うんですか?」  「そうだぜ……。だから俺様はあの時、お前を全力で止めたかったんだよ……。あ、ちなみにお前、龍神だしなんか特殊能力があるだろ?なんだ?」  リュウに問われ、タニは顔を赤くしながら小さくつぶやいた。  「……リュウノヒゲとかタマリュウとか呼ばれている植物を出せます……。」  「……はあ?」  「ですからタマリュウを出せます!」  タニはやけくそで緑色のモコモコした植物を沢山出して見せた。  「……え?ちょっと待て。それだけ?」  「はい!」  開き直ったタニは頬を赤く染めながら胸を張った。  「おい……お前、龍神だよな?本当に龍神か?地味すぎるぜ……。どっかの民家を守る龍神を思い出したぜ……。ま、まあいいや。よし、その緑のよくわかんねぇ植物を飛龍に向かって投げろ!悪あがきだ!」  「はいぃ!」  リュウとタニは必死でタマリュウを飛龍に向かい投げ始めた。  「……ああ?何やってんだあいつら?馬鹿なのか?」  飛龍はため息をつくと手で小さな風を作ると横に凪いだ。  「ぎゃあ……!」  タニとリュウは遠くに飛ばされ、壁にぶつかった。  リュウとタニは目を回しながら倒れた。二神ともHPがゼロになっていた。  「だ……大丈夫か……タニ?」  リュウはタニがケガしないように抱きかかえて守ったがタニは精神的にダメージを受けHPがゼロになったらしい。  「わああああん!」  タニは目を回しながら大声で泣き始めた。それと正反対に飛龍は大声で笑っていた。  「あーはははは!ダメージ食らってないのにHPがゼロになる奴なんて初めてだぜ!え?なんで?何のダメージ?やべえ!傑作!ははは!」  「笑いごとじゃねぇ!こりゃあなんのデモプレイなんだよ!」  怖い顔でリュウは笑っている飛龍を睨んだ。  「んまあ、デモプレイっていうか、ほら、あれ見ろ。」  飛龍が闘技場の端っこを指差した。闘技場の端っこには大きなテレビモニターがついていて観客が沢山映っていた。  「ああ?」  リュウは観客の一喜一憂している会話に耳を向けた。  「やった!当たった!飛龍の勝ちだよ!」  「っち……ダメなツアーコンダクターめ……飛龍にいれときゃあよかった。」  なんだかよからぬ会話を観客がしている。観客といっても今日は竜宮がお休みなので皆従業員の龍神なのだが……。  「あいつら……。おい、飛龍、これはカケごとだよな?俺様達をダシに使ったのかよ!あー、腹立つぜ。」  リュウが頭をクシャクシャとかきながら唸った。  「そうだねぇ。賭け事だ!金じゃなくて商品券とかを景品にするデモをやってみたわけだ。挑戦者の客も楽しいし観客も楽しいだろ?そしてあたしのアトラクションは商売繁盛ってわけよ。」  飛龍がいたずらっ子のような笑みを向けた。リュウはため息をつくと何か反撃の言葉を探した。  「ああ、カケは基本的に無断でやるのはよくねぇだろ!今回だってちゃんとオーナーに言ったのか?ああ?」  リュウは意気込みながら飛龍に鋭く言い放った。  「ん?言ってないよ?」  「呑気な顔をしてんのも今の内だぜ。俺様がこの件をばっちりオーナーに報告しておくからな!お前は厳罰だ!覚悟しとけ!コラァ!」  リュウの脅しに飛龍はケラケラと笑った。  「え?オーナーのお仕置き?ああ、受けてみてぇなあ。ああ、やられた事ないけど鞭とかでビシバシ叩かれてぇ。うんうん。あの鋭い声でお仕置きだとか言われてみてぇ。」  飛龍は頬を赤くするとうっとりとした顔を向けた。  「……うっ……お前ひょっとするとドМ?その色っぽい顔やめろ!お前、オーナーに怒られて喜んでいたのかよ……。」  「ああ、さいっこう❤」  ドン引きのリュウに飛龍は再びケラケラと笑った。  「お前……ドМだったのかよ……。」  「りゅ、リュウ先輩……衝撃を受けすぎです……。」  リュウの茫然とした声にタニは思わず小さく突っ込んだ。  観客も飛龍もなんだかわからないがどんどん盛り上がっていき、最終的には騒動が大事になり飛龍はオーナーの部屋への呼び出しを食らっていた。    しばらくして飛龍がなんだか残念そうにリュウとタニの元へと戻ってきた。  観客であった従業員達はオーナーの怒りを買わないようにそそくさと波が引くように去ったようだ。今は誰もいない。  「あーあー、つまんねぇの。」  「飛龍、お前、オーナーに呼び出し食らってたが大丈夫だったのかよ?」  リュウは不安げに飛龍を心配していた。  「え?ああ、別に。……『お前は女の子なんだから男相手に無理な事はするな、ケガして傷になったらどうするつもりだ。』だってさ。あたしは指で数えられるくらいしか負けてねぇのに。」  「ああ?心配されてんじゃねぇか!なんで残念そうなんだよ。お前。」  リュウは呆れた顔を飛龍に向けた。  「だってさ、あたしは厳罰を期待して行ったのに……。」  「相変わらず頭がブッ飛んでんだな。お前。」  リュウが再びため息をついた時、飛龍が大きく伸びをした。  「ったく、オーナーは優しすぎんだよ。ま、いいや。あたしはこれからこのフロアの整備に入るからお前ら、もう用済みだわ。」  「さんざん暴れといて用済みとか言うなよ……。これから殺されそうじゃねぇか俺様達……。」  リュウは脱力しその場に膝をついた。  飛龍はリュウとタニに手を振るとルンルンと歩き出した。  「飛龍さんの頬、真っ赤でしたね。これは恋です!」  「あ?なんだよ、いきなり。急に元気になりやがって。」  タニは興奮気味にリュウにささやいた。  「飛龍さん、きっとオーナーに心配されてとてもきゅんときたんですよ!きっと!間違いないです!恋です!これは恋なんです!」  「あー……女ってこういう話題好きだよな。直接どうなのか聞いて来いよ。おら。」  リュウは頭を抱えながらタニの背中を押した。  「え?い、いや……いいですよ!もうトラウマだらけですから……。」  タニは慌ててリュウの影に隠れた。  「ん……ああ、なんか悪かったな。色々と。」  リュウはとりあえずあやまってからタニの頭をポンポンと叩いた。  こうしてタニはまたもトラウマを植え付けられる事となった。
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