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「何、あれ。『地獄の穴・立ち入り禁止』って。行き止まりみたいだけど、人が、ひとり入れる穴だよね」
左六女は、菊子の耳元でささやいた。
「はい。あの穴の先は、竪穴になっていて、下に落ちれば、数十メートル落下します。普通の人間ならば死にます。でも、鬼族は、逆に穴を登って、財宝の間に行くのです。登るための突き出た岩は、鬼族しかつかめません。その岩をつたって、上の洞窟に行くのです。上の洞窟はさらに迷路になっているので、人間はとうてい財宝の間まで、行けません」
「そっか。あんなところに、鬼族の洞窟につながる入り口があったんだ。じゃあ、虚無大師たちは、あそこを見つけたんだね」
「そうなんです。あいつらは、あそこから財宝の間に向かったのです。虚無大師が、呪術を使って、怪物があそこを登れるようにしたのです」
「それじゃあ、今でも虚無大師やミノタウルスなんかは、あの奥にいるの!」
「はい。この奥の洞窟は、迷路のようになっていますが、外国の怪物は、今も財宝の間を、こじ開けようとしています」
「へええ、今この時に、怪物がこの奥にいるなんて、信じられないけど。でもさあ、そいつらは、人間は襲わないのか?」
「外国の怪物は、太陽の光が苦手なようです。だから、昼間は絶対に、ここまで出てこないし、夜は、かなり明るい電灯がありますから」
「そっか、怪物も文明の利器にはかなわないんだね」
「はい。あいつらの目的は、あくまでも財宝ですから、人間に姿をさらして、余計な問題は起こしたくないのでしょう」
「ふーんそうか。さすが、外国の怪物だ。効率的に行動している」
2人は、一通り観光洞窟を見学して外に出た。
「次はさあ、菊ちゃんが言ってた『財宝の間』に続く、秘密の抜け道を教えてよ」
「わかりました。ちょっと山道に入りますが、大丈夫ですか?」
「大丈夫! ただし、入り口の近くまででいいよ。誰に見られているか、分からないからね」
「はい。ちょうど漁港側に、秘密の抜け穴があります」
菊子は、舗装道路から反れて、細いけもの道を上って行った。10分ほど歩いたところで立ち止まる。
「おっと、どうしたの菊ちゃん」
「あそこに、抜け穴の入り口があります。それとここから下に見えるのが、観光港の反対側にある漁港です」
「ああ、あれかヨットを着けるには十分だね。あの漁港から、ここまで上がって来る道ってあるかな」
「あります。慣れている私なら、上りは15分でここまで来て、下りは10分くらいで漁港まで行けます」
「私たちは、初めての道だからね……。しかも作戦決行時は、暗い山道だ……。しかし最適な道はここしかないね。25分でここまでこられれば、御の字かな……」
左六女は、離れた所から、秘密の抜け穴の入り口を確認した。
「オッケイ、偵察は終了だ。菊ちゃん、観光洞窟の食堂で、うどんでも食べて帰ろう。奢っちゃうよ」
「わあ! ありがとうございます!」
菊子は、飛び上がって喜んだ。
2人は、観光洞窟の方へ戻って行った。
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