21人が本棚に入れています
本棚に追加
菊子は、目と耳の間に垂れ下がっているツインテールをほどく。黒髪が、ストレートになると、髪を結んでいたところに角が2本。
「それって、角だよね。小鬼って名前も変わってるなと思ったけど、ひょっとして、菊ちゃんて本当に鬼なの?」
桃子はざっくばらんに聞いた。
「はい。あたしは鬼の子孫です。鬼ヶ島から来ました」
「え、鬼ヶ島って、瀬戸内海にある女花島のこと?」
「そうです。あそこには、鬼族がいまだに住んでいるんです」
「じゃあ、鬼族から見たら僕なんか敵なんじゃない? 僕のご先祖は、鬼退治なんてやっちゃったみたいだし」
「確かに、桃太郎さんは鬼ヶ島に来ました。あたしたちのご先祖はコテンパンにやられましたが、それは仕方のないことです。人間を脅して財宝を奪ったりしたんですから。でも、決して弱い女性や子ども、老人は、脅かしたり襲ったりしませんでした。本来、鬼ヶ島の鬼は、民を虐げる権力者から、財宝をいただいていたのです。もちろん、人を殺したり食べたりなんてことはしなかった」
「へえー。プライドがあったのかな」
「はい。鬼が悪魔のように恐れられるようになったのは、あいつが現れてからです」
「あいつ?」
「はい。あいつ、『天地人虚無大師』です」
「誰、それ?」
「天地人虚無大師は、まったく正体不明で、謎の人物なんです。あいつの望みは一つだけ。人間の怒り、憎しみ、恐怖、恨み、疑いなどの感情を広めて、人や鬼を争わせること。そして、最後は人間も鬼族も滅亡させたいのです。それほど、生きとし生けるものに対する恨みを持っている。それが天地人虚無大師です。あたしたちは、虚無大師と呼んでいます」
「そんなやつが現れて、鬼はこき使われたんだ」
「はい。虚無大師に逆らうと、無限の闇に落とされるのです。そうやって鬼を脅して、良い人間も襲わせたり、財宝を奪わせたりしました。ここまでくると桃太郎さんも、鬼退治に立たざるを得なかったのだと思います」
「まあ、いくら虚無大師に脅されたと言えども、人間を襲う鬼を放ってはおけないよね。桃太郎さんの辛い所だね。で、ご先祖は、猿・犬・雉を家来にして鬼ヶ島に行ったんだ」
最初のコメントを投稿しよう!