第1話 日常の崩壊

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第1話 日常の崩壊

「いってらっしゃい、怜生!」 「あぁ、行ってくるよ、結衣。」  いつも通りの日常。妻の結衣に見送られながら玄関を出た。閉める直前まで ずっと手を振ってくれて、とても心が温かくなった。  結衣は現在お腹の中に子供がいて、後で産婦人科に行くそうだ。今はまだ生 活に支障はほとんどないらしいが、数ヶ月経ったら俺は産休取ってそばにいよ うと思う。  彼女とは小さい頃からの幼馴染で、年齢も24と一緒だ。物心ついた時から 一緒にいて、互いのこと深く知っていて、気が付けば意気投合して恋仲になっ ていた。 綺麗な部分も、汚い部分も知っているからこそ信頼できる。だから俺からプロ ポーズして、こうやって幸せな家庭を築き上げている。仕事は大変だけど、 妻、そして未来の子供が待っている。だから俺は頑張れる。今日も妻と子供の ために働こう。そう思っていた…  その日の昼、休憩時間間近のときに突然電話が鳴り響いた。俺は慌ててオ フィスから出て電話に出た。 「四海 結衣様の旦那様でしょうか?」 声の慌て具合から只事ではないと察した。 「緑川病院です。実は結衣様が交通事故に遭って、こちらの病院に運ばれまし て…。」 「こ、交通事故だって!?」 結衣が…交通事故に巻き込まれた…? 急な報告に頭が追いつかなかった。 「えぇ、現在治療していますが厳しい状況でして…。旦那様にこちらに来てい ただきたいとですが…。」 「わ、分かりました!すぐ向かいます!」  電話を切った後、すぐ上司に事情を話して早退した。会社を出た後駅まで全力で走った。  緑川病院は確か隣町、電車で行った方が早い。 走っている間、結衣のこともそうだが、お腹の子供は無事だろうか。お願いから生きててくれ…!  そして数十分後… 息を切らしながら緑川病院へ走り込んで中へ入った。入口の看護師が俺の汗 びっしょりのひどい顔を見て察したのか、すぐ案内してくれた。  案内された手術室の前の席に座り、ずっと何もせず待っていた。1時間…2 時間…そのくらい経ったのだろうか…。焦る気持ちを抑えようとしているが、 手が震え、心臓がずっとドクドクと脈打ってるのを感じる。時間が経てば経つ ほど焦る気持ちは大きくなるばかり。  すると手術室のランプが消えて、外科医の医者が出てきた。俺は飛びつくよ うにその医者に駆け寄った。 「先生!結衣は…妻は⁉︎ 子供は⁉︎」 そう聞くと、医者はマスクをとって、とても重々しい顔をした。 「残念ですが…既に手遅れの状態で…救うことが出来ませんでした…。」 それを聞いた瞬間、膝から崩れ落ち、そして今まで抑えていた感情が全て涙と 共に溢れた。 「そ、そんな…結衣…!あぁぁぁぁ…!」 床に伏せて周りのこと気にせず大声で泣き叫んだ。  物心ついたときから一緒にいて、今までで約20年間の関係はあまりにも大 きなものだった。そして失ったのは結衣だけでなく、お腹の中の子供もだ。 ずっと想像していた、結衣と一緒に育てることを…それが叶わなくなって、結 衣までもいなくなって… これから俺…どうやって生きたらいいんだよ…!  あれから5年… あの時のように帰って出迎えてくれる妻がいない。 帰るたびに思い出させてくる。  玄関入ってすぐ隣の部屋に結衣への仏壇が置いてあり、毎日手を合わせてい る。 結衣以上の女性などいない。俺は一生独身でいるつもりだ。この世の中に 楽しみはないが、結衣と子供の分生きるつもりだ。だから結衣の元へ行くの は、まだまだ先になりそうだ。そう思いながらそのままソファで死んだように眠った。    翌朝… 今日は日曜日。会社は休みで、この日ばかりは暇だ。なんか唐突に散歩でもし ようかと思い、外に出たそのとき…  家の前にまだ幼稚園児くらいの女の子が1人で突っ立っていた。すると俺の 顔を見るなり、急に泣き出して、 「怜生…‼︎ 怜生‼︎ 」 …と、突然俺の名前を呼んだ。
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