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「はぁ、はぁ、はぁ……うわっ!?」
彼は息を切らして駆けていた。追手から逃れるために。だが、たった今、彼が転がってしまうことでその希望は最も簡単に崩れ果ててしまった。泥臭い土へと派手に転んだ彼の強く目立つその皮膚は簡単に土色を覚えて汚れる。
「そこで転がったぞ!」
無論、追手は派手な音を聞き逃す道理もなく、音の元を辿るように追手は彼を見つける。
「やっと逃げる気も失せたか……このちょろまかしい鼠め」
彼は冷汗と涙を覚え、必死に手で身体を後ろへずらす。終わりだ。そう思うしか無かった彼は、思いに浸潰されたように、目を思い切り閉じる。
その刹那だ。本の数寸先で空気を断ち切るほどの鋭い音がする。彼が目を開けると、そこにはアブノが立っていた。
「誰だ!お前!?」
「誰でもいーだろ、糞野郎」
「あ、あなたは……?」
彼の声にアブノは振り返り、その顔を見やる。
「あ、起きたんだ……起きたんならさっさと逃げてくんない?邪魔」
その言葉だけ置いて、アブノは真っ直ぐ追手へと走り、武器を交わす。風のように俊敏かつ流動のような動きをするアブノに、追手は何一つ相手を取れない儘、致命傷を与えられていく。立ってられない彼らはむざむざと斃れる。彼はそれを呆然としながら直視することしかできず、不思議と身体が動くこともなかった。
「ふー、一先ずこれで終わりでいいな」
アブノは息をついて、背後を見る。そこには動じない彼が残っていた。
「って、逃げてなかったの?……まあ無事ならいいけど、じゃっ、話したいことあるからまた」
そう言ってアブノは彼の首にスタンガンを当て、気絶させる。そうしてアブノは彼を担ぎ上げて、帰還していった。
「ん…………んー?」
「よぉ」
「あなたは……?」
彼が再び起きると、椅子に座らされていた。アブノはその様子を見て、軽く安堵したように息を置く。
「俺はアブノだ」
「僕は…………」
「『名前なんか無い』だろ?」
「え……?」
彼はアブノの方を驚いたように見る。
「違うか?」
「う、ううん……合ってる」
「だろうな」
アブノは嘆息して、話し始める。
「いいか、これからお前は訊問される」
「……」
「まあ、軽い質問だよ……ずばり、お前は暴走したことがあるか?」
「……!」
彼は簡単に暴走という単語に驚きを見せた。思い当たる節はあると言わんばかりだ。そして、彼は俯き、吐くように応える。
「うん……僕は、僕は確かに暴走した」
アブノの目はその声を聞き入れると細く悲哀な色をして言う。
「そうか、分かった……なら、俺についてきてもらう」
「ついて……って……」
アブノは立ち上がり、部屋を出ようとしていく。
「早くしろ、弐参伍番」
「う、うん!」
弐参伍番は足早にアブノへとついていく形で部屋を後にするのだった。
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