インパーフェクション

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インパーフェクション

 インパーフェクション、不完全さや不完全そのものを意味する言葉。  僕たちはこの言葉に常に囚われている。それこそその天命が果てるまで、完璧という正解に至ることなく、不完全という不正解の儘、死んでいく。盛れることなく、例外無く。そこから逃げる術なんてものは存在せず、生まれた頃から逃れられない定めに値する。 ―――――  彼は都市を眺めた。(さかえ)を知った都市だ。愚かしい。繁栄を知った人間以上に馬鹿なものはいない。そう感じていた彼はその眺望に悲痛な嘆息を垂らし落とす。  この世に(めい)を受けた彼の名は、アブノ。全身が犬の黒毛で覆われた獣人であり、人間を無意識的に毛嫌っている。ヒトは愚かだと、常に貶している。 「あれ?また来てたの、あんさん」  背後から聞き入れる聞き慣れたその忌々しい声に、アブノは背後を見る。そこには案の定、見慣れた姿があった。 「ウレス……」 「そんな明らかに嫌な顔で俺を見るなよ、俺だって凹むんだからな?」  アブノは視線を逸らせ、再び栄えた街を眺む。ウレスは隣に迫り、呆れるように語る。 「よくお前も街を眺められるよな……ヒト、嫌いな癖に」 「……」  アブノは間を置いて、目線を変えぬ儘、話題を摩り替えていく。 「……例の弐参伍(にひゃくさんじゅうご)番、実験直後に脱走したそうだ」 「ふーん……じゃっ、今んとこ息も斬らす勢いで逃げてるって訳だ」 「殺る?」  アブノの提案に少しの間、思考しウレスは応える。 「いーんじゃね、どっちでも……俺達には関係(かんけぇ)ねー訳だし」 「……分かった」 「やっぱ助けたいって思っちゃうのか?脱走者弌捌(じゅうはち)番さん?」  アブノは懐から拳銃を取り出し、その銃口をウレスの頭の直上に置く。 「それ以上言ってみろ、ここでお前を殺してもいいんだぞ?」  アブノの目は咄嗟に鋭く光り、ウレスの方を力強く睨むも、ウレスは彼の方を見向きもせず、手を挙げ「はいはい、ご冗談ですよ?」と揶揄うように放つ。アブノは舌打ちをした後に、拳銃を仕舞う。 「……そろそろ行く?」 「嗚呼、そろそろ奴も疲れてきただろ」 「じゃっ、行ってらっしゃい」  アブノは街の眺望を止め、地上へ渡る階段へと向かう。 「それにしてもインパーフェクションなんて皮肉な名前だよねぇ……不完全って」  ウレスの声にアブノは振り返った。 「不完全か……まあ、俺たちに完全なんて言葉はあまりにも不適合すぎるだろ」 「それもそっか、たまにはいーこと言うじゃん」 「……お前には言われたくないな」  その台詞を捨てて、アブノは階段を一段飛ばしに降りていった。 「雲外蒼天とは言ったものの、これじゃあまりにも空が暗すぎて笑っちまうな」  ウレスは鼻で笑って自らを自嘲してみせた。アブノは街を駆けてある場所に向かっていた。月が見事に夜空を飾る宵の中で、彼らは(うごめ)く。各々の願いを叶えるべく――。
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