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「いいだろお、じいちゃんよお。いつもどおり、代わりのお宝は持ってきたんだからさあ」
「フン。お前はいーつもいーつもワシが魔力を込めたアイテムを取り上げて、魔力が空っぽのアイテムを置いていきよる。それで荒稼ぎばっかりしおって。フン」
「余った魔力をアイテムに捨ててマジックアイテム化させてるだけで、じいちゃんにも損はないんだろ? 許してくれよう」
第二百階層。無事にアルデラの案内で外縁に降り、ダンジョン内部に潜り込んだオレは、いきなりの伝説のホワイトドラゴンとの遭遇に思わず飾り物の剣を構えて戦闘態勢を取った。
が、アルデラは堂々とホワイトドラゴンをじいちゃん呼ばわりして挨拶をしはじめ、人語を話せるホワイトドラゴンはアルデラに「いつもいつもお前は」とストレス解消の愚痴も混ざっていると思われる説教をし始めて今に至る。
「特に今回はこいつ! こいつの装備、良いだろう?」
「なんじゃその、センスの悪い金持ちじいさんがボッタクリにあったような、見た目だけ取り繕って防御力が紙そうな装備は」
「あまり言い返せない」
「しっかりしろイアン。言い返して良いぞ。じいさんもさ、こういうゴテゴテしたのが好きだろ」
「まあ、こういうキンキラしたやつは五十年ぐらいほっといておけば、魔力で強度もあがるし、良い感じに古びてチープさが無くなるもんであるのは認めるぞい。いかにも由緒正しい装備品に見える一品になるじゃろうなあ」
「じゃあ問題ないじゃん。五十年ぐらい持っといてよ」
「五十年も不良債権抱えるんか~い」
ツッコミを入れてアルデラと一緒に笑っていたホワイトドラゴンじいちゃんが、ふっとこちらを向いた。
「その装備を脱いで、代わりにどれでも好きなアイテムをひとつ持っていくがよろしい」
「はい」
「ひとつう? アーマーにヘルメットに靴に剣まであるのに?」
「だまっとれえアルデラ。こんな安物でそこまでサービスせんわい」
言い合うアルデラとドラゴンじいちゃんを脇目に、オレは装備を奉納し、ホワイトドラゴンが守る宝の山の中から一振りの剣を選んだ。
「ち、可愛い顔して抜け目なく価値あるもんを選びおって。確かにどれでも良いと言ったけどのう」とドラゴンはぶつくさ言う。剣はシンプルな細身のもので、オレ自身はドラゴンが言うように『価値あるもん』と分かって選択したわけではなかった。
「ドラゴンさん、そんなに価値ある剣なんですか?」
オレが聞くと、ドラゴンは何故かむしろ嬉しそうに答えた。
「天地が争った太古の昔に天使長エースが使ったとされる剣じゃ。その謂われが本当かは眉唾モノでも、【ディケイステア】のワシの元に持ち込まれてから百年は経つお宝じゃい。プラス値はワシが抱え込んどった年数の魔力を基準に決まるから、滅多にないプラス百以上の武具じゃぞい!」
「そ、そんな貴重なものをもらうわけには」
「ええ、ええ。ずっと注目されんかったその剣が急にお前の関心を引いたのじゃから、エースの剣も旅に出たい頃合いなんじゃろう」
「そんなに大サービスするなら、ついでに軽いアーマーもサービスしろよお。防御装備もないんじゃ、こいつ、このあとやってけないだろー?」
「ああもう、それじゃあそこのライトメイルでも持って行かせろこの泥棒」
アルデラのゴネのおかげでオレは軽いが恐ろしく魔力の籠もったライトメイルをもらえて、オレの格好はちょっとした駆け出し冒険者程度には見えるようになった。しかも実際には【ディケイステア】で長年魔力を吸収した超強力な強化品だ。
「じいちゃんよ、こいつが逃げるならやっぱ東かな? 東の世界樹あたりの街なら安全かなって」
「わしゃ【ディケイステア】から出たことないんじゃぞ。なんも知らん」
「役に立たないじいちゃんだな」
「うるさいぞい。イアン、お前さん自身はどう思うんじゃ」
「西は修羅の国だって言われてますし、南東は不夜城の魔界と言われてます。他に大きい街があるのは東の世界樹近くかもう少し南かぐらいでしょう」
「じゃあそこに行きなさればよろしい。わしゃ分からん」
「もー、役立たずじいちゃん」
「生意気アルデラじゃあ」
一方のアルデラは、オレやドラゴンじいちゃんと会話をしながら、腕輪の宝石からごちゃごちゃと大量の道具を取り出してはドラゴンの部屋に安置していいた。すべて、魔力による強化を期待して置いていくつもりらしい。
その中にはダンジョン探索中に亡くなっただろう方の装備一式と思われる品もあり、アルデラが目線でオレに指示したのでオレはアルデラの隣にならんで死者の安寧に祈りをささげた。同じようにオレの装備品がアルデラによって持ち出されてこの部屋まで運ばれていた可能性もあったのだろうなと思いを馳せた。
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