わたしはもうりんごを剥かない

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「ただいま」  私は台所に立っていた母に声をかけると鞄を椅子に掛けた。 「あ、穂乃果。ありがとうね」 「ん」  私は母に買ってきた物をビニール袋ごと手渡した。母は袋を受け取ると中身を確かめる。 「あれ、りんごなんて頼んだっけ?」  母の言葉に、私は「んー」と口籠った。 「私が欲しかったから買っちゃった。ダメだった?」  手を洗いながら答える私に、母は「別にいいけど」と返しながら夕飯の支度を始めた。 「今日はお父さん遅くなるらしいから、早めに食べるわよ」 「分かった」  母の言葉を背に受けながら、私は人数分の箸を手に取った。
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