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わたしはもうりんごを剥かない
「ねぇお母さん、なんでりんご剝いてるの?」
小学校二年生のとある秋の日。台所に立っていた母を見上げて私は尋ねた。
「今日はね、お父さんの誕生日だからお父さんの好きなりんごを出してあげるの」
そう言いながら母は慣れた手つきで、するするとりんごの皮を剥いていく。
「お父さん、今日誕生日なの? じゃあケーキもある?」
「お父さんはケーキが苦手だからね。代わりにりんごを食べさせてあげるの」
「ふーん……」
私はしばらく母がりんごを剥く様子を見ていたが、いいことを思いついて声を上げる。
「私もやりたい!」
「え?」
「私もお父さんのためにりんご剥く!」
母はちょっと驚いた様子で目をぱちくりさせていたが、ふっと微笑んで言った。
「じゃあ踏み台持っておいで。手も洗ってくること」
言われた私は「はーい」と答えながら洗面所へ向かった。
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