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VS勇者・3ラウンド③
一週間、寝こんでいた間、白魔導師が生命維持を保つ魔法をかけながら、看護してくれらしいが、体力や筋力の衰えはどうしようもなく。
目覚めた直後は、まともに立つこともできなかった。
翌日から、格闘家に手伝ってもらい、歩く練習にはじまり、すこしずつ体を慣らして運動を。
格闘家に用事があるときは、白魔導師がつきそって、二人して交代に面倒を見てくれたもので。
旅の途中に足を引っぱって、申し訳ないようで、ありがたかったが、気がかりが一つ。
そう、踊り子のキーについて。
踊り子だけは、俺のつき添いをしてくれず。
三人で俺の部屋に集まるか、ほかに人がいないと顔を見せない。
その顔にしたって伏せてばかりで、俺に寄りつかず、口も利かない。
どうして俺を避けるんだ!俺がなにをしたっていうんだ!
傷つくようだし、苛だつし、じれったいし、もどかしいし。
でも、村の女性の呪いを受けて、へばるような俺でも、勇者は勇者。
人前でキーに泣きすがって、みっともなさ全開に思いをぶちまけるにはいかない。
俺の評判が落ちるならまだしも「勇者をたぶらかした不届き者」とキーに石が投げられるようなことは・・・。
まあ、たんに臆病風が吹かれていたのかもしれない。
夜な夜な体を求められ、いい加減、嫌気がさしたのだろうか。
腕を組み近づかないのは「もう、お前には触らせない」との意思表示なのだろうか。
つい後ろむきに考えてしまい、あらためて引導を渡されるのを、俺のほうこそ避けたかったのかも。
そんなこんなで、体力筋力の回復訓練をしつつ、キーと話しあえないまま、ずるずると。
といって、旅立ちになれば、その機会が訪れるだろうと見込んでいたのだが・・・。
「じつは町長に、パグの退治を頼まれてね」
やっと、すこしは剣がふるえるようになったころ、ベッドわきで林檎の皮をむく白魔導師が告げた。
パクとは、動物のバクに似た魔物だ。
バクは迷信的に「人の夢を食べる」とされ、一方でパクは現実的に人の記憶を糧にして食べる。
ただ、温厚でか弱い魔物なので、食べる記憶は申し訳程度。
人が忘れるのは「昨日の夕飯はなにを食べたか」「昼間なにをしていたか」「夜に酒を飲みかわしたのは誰か」といったところ。
旅のはじめのほうに遭遇したきり、今やめったに見かけないが、この町の近くの森に、ぶくぶくに太ったパクが居座っているという。
このでぶっちょパクが厄介で、人の半生ほどの記憶を食べてしまうとか。
被害にあった人は、家族など大切な人、長年、築いてきた人間関係、仕事のスキルといった貴重な人生経験を忘れてしまったとのこと。
前に退治した、助平な巨大ベロリンチョと同じ類の、厄介な変異種だろう。
このパクはベロリンチョとちがって、町を襲ってこず、縄張りの森からは一歩もでない。
だったら、人が森に近づかなければいいと思うも、そうもいかない事情が町にはある。
町の特産品は、魔除けの元になる「魔石」。
その鉱山が、森をぬけた先にあるのだ。
森を迂回したり、裏から入ることはできない。
絶壁の高い岩山に森が囲まれているから。
町のため、生活のため、人はどうしても森を通っていくしかない。
と見越して、賢いパクは森で待ちかまえているわけだ。
パクの思惑どおり、町の人は鉱山に行くのをやめなかったが、そのたびに被害がでるのを町長は、よしとせず。
腕の立つ冒険者や、傭兵、賞金稼ぎに退治を依頼。
「それが、誰も引きうけてくれなかったらしいのよ。
体力も防御力も魔力も低いパクを倒すこと自体、たやすいといっても、人生の半分を奪うように、記憶を食べるから。
もともとリスクが高いし、ほら、ふつうのパクも戦闘になると、ほとんど、そのパグが先頭をきっていたでしょ。
こっちのほうが格上だろうと、絶対に。
調べてみたら、パクは戦闘で必ず攻撃の一番手になるらしくて。
つまり、倒すには、一人の記憶喪失を犠牲にしないといけないわけ。
傷を負えば、魔法や薬草で回復できる。
最悪、死んでも教会で生き返らせてもらえるけど。
記憶はそうもいかないから・・・。
どれだけ、金のためにヨゴレ仕事をする連中も、自分の記憶が消されるのは御免ってわけね」
ましてや、魔王打倒の道半ばの俺らが、これまで積みあげてきた実績、深めた絆を抹消されるわけにはいかない。
なんて、平和の使者たる立場で、駄々をこねてもいられない。
「なんとか打開策を考えないと・・・。
俺が全快するまでに、まあ、時間はあるから、その間にでも」
白魔導師と部屋に二人きりとあって、つい物憂げに呟く。
いつもなら「村のために!」と意気盛んに吹くので「面倒くさそうね」と怪訝がられると思ったが。
「あなたを待たなくてもいいかも」と意外な返答。
「パクはキーの一蹴りでも倒せるから。
先制攻撃を受けない方法さえ思いつけば、あなたが不在でも大丈夫よ。
というか、旅の要のあなたに居てもらっちゃ、逆に気が気でないわ。
万全の策で臨むといっても、万が一のこともあるし・・・」
白魔導師の言い分はもっともだったが、なにか釈然とせず。
林檎の皮をむきおわったというのに、顔を上げないし。
すこしもしれば、何ごともなかったように、切った林檎を食べさせてくれ、世間話をしてくれたものの、胸のもやもやは消えなかった。
心配してという意外に、目的があって俺の戦闘不参加を望んでいるのか?
疑念が浮かびかけるも、まだ体力も気力も不十分。
白魔導師を問いつめたり、キーと面と向かう活力が湧くまで待ってくれず、町を脅かすパク退治作戦は、どんどん練られていって。
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