VS勇者・3ラウンド④

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VS勇者・3ラウンド④

人の半生ほどの記憶を食べる能力があり、必ず先制攻撃してくる魔物のでぶっちょパク。 倒すには、先制攻撃を受ける一人の犠牲が要る。 なんて愚策は却下。 知恵を絞って話しあった結果「カカシ」を使った作戦が 「カカシ」は畑にあるのと同じ見た目ながら、魔物には人に見えるというアイテム。 魔物をおびき寄せる罠や、追われているときは囮に。 戦闘中は、魔物のターンを一回つぶすなど、戦略的に用いられる。 そう、このカカシを、パクの先制攻撃の標的にさせようというわけ。 「カカシ」プラス「魔物を挑発する匂いを放つ香水」セットで。 これにパクがまっしぐらに食いつけば、たとえ、つぎのターンが、戦闘能力が低い踊り子のキーでも倒せるはず。 部屋に三人できて、白魔導師が作戦の内容を教えてくれたのに「うん、いいアイディアだ」と肯きつつ「でも」と。 「退治しにいくの、もうすこし待ってくれないか? そしたら、俺も戦闘に加われるし」 「だめよ!体の機能や運動能力が回復しても、いきなり、本格的な戦闘をするなんて! 戦闘だって、すこしずつ体を慣らしていかなきゃ!」 「それに正直、旅に遅れがでているから、ゆっくりしていられない。 町長や町の人が切羽詰まっているようで、放ってもおけないしな」 「・・・大丈夫だよ。 いつでも、すぐに『とんずら』を発動できるよう、俺が備えておくから」 はじめから、分がワルイのは分かっていたが、案の定、三人連携の説得を跳ねかえせず。 なんといっても、キーが俺に話しかけてくれたものだから。 目覚めてから二週間経ち、やっと声を聞けたのに、まんまと胸を打たれてしまい・・・。 翌朝、準備を整えて、部屋に挨拶にきたのを見送り、窓から三人が消えるまで眺めたもので。 一応、三人が頼もしく語ったのを飲んだといっても、どうにも胸騒ぎがして、部屋の中をうろうろ。 耐えきれず、部屋をでようとしたら、宿屋のおばさんが扉のそばに、椅子を置いて座り編み物中。 白魔導師に見張りを頼まれたらしい。 置いてけぼりの俺の心境はお見とおし。 「勇者さまになにかあっては・・・」と宿屋のおばさんに涙目ですがられて「放っておいてくれ!」と乱暴に振りはらえないのも、お見とおしってか。 実質的リーダーなしっかり者の白魔導師とあって抜け目ない。 とはいえ、やっぱり、じっとしていられなく「抜けだすつもりはないから、なにか宿屋の手伝いをさせて」と頼み、時間つぶし。 帰還の予定は日が落ちるころ。 だったはずが、夕日がまだ明るいときに「勇者さま!」と村の少年が駆けこんできた。 「仲間の一人が、戦いで負傷をしたそうです! 白魔導師さまが、お呼びになっています!」 マキ割りに没頭し、火照っていた体が、とたんに氷点下。 「勇者さま!シャツを・・・!」なんて聞いていられず、汗光る上半身をさらしたまま、診療所へ全力疾走。 診療所の扉のそばに、格闘家が立っていたものの、目もくれず室内に踏みこもうと。 「待て!落ちつくんだ!」と抱きしめられ、阻まれたのを「危険はなかったんじゃないか!」と噛みつく。 「・・・そうだな、俺らの見込みがアマかった。 ふつうのパクではないと、心がまえをしていたが、思った以上に読めない魔物だったんだ。 ヤツはカカシにも挑発する匂いにも引っかからなかった。 迷わず、キーに先制攻撃を・・・」 「じゃ、じゃあ、キーは記憶を食われたのか!?」 「どうやら、あのパクは多くの記憶を食うのに時間をかけるらしい。 食べている最中に、俺のターンが回ってきたから、とりあえずパクを頭から引きはがして、白魔導師が魔法でもって、戦闘を強制終了した。 そして、なんとか逃げてこられたが・・・キーは気を失ったままだ。 どういう状態になっているか分からないが、今、白魔導師が治療師と相談しながら、脳のダメージを最小に食いとめる処置をしている。だから・・・。 心配なのは、十分、分かる。 ただ、キーの状態はひどく不安定だから、俺たちが騒ぎたてたりして、刺激を与えるようなことをしてはいけない。 神経を使って処置する白魔導師と治療師の邪魔もしては・・・」 胸が裂けそうな不安と悲しみ。 失態を犯した仲間への八つ当たり的な恨み。 疑心がありつつ、口にできず、引きとめもできなかった自分への怒り。 心臓が焼けるような激情が湧きあがりながらも、力なく膝を折って、うな垂れた。 たしかに悲劇とはいえ、生死の危険があるわけではない。 もし俺を忘れたとしても、キーの命が助かるなら、いいではないか。 そう割りきれずに、取りかえしがつかないことが起きたように思えてならず。 「どうか、神様・・・!」と祈る気にもなれなかった。
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