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エピローグ②
魔物軍勢の世界同時攻撃によって、世界が滅亡しかけたものの、魔王が死に、一転、魔物と共生する新しい時代の幕開けとなった。
魔界と完全に切りはなされた状態となり、地上にはのこった魔物がちらほら。
たまにその魔物とトラブルになっても(人が原因の場合もある)神が間にはいって宥めるに、オオゴトにはならず。
魔物と神と新たな形の関係を築き、すこしずつ慣れながら、人人は戦いの後処理をして、日常の生活をとりもどしていった。
で、勇者はどうなったかというと。
世には「自らの命を犠牲に魔王を討ちとった」と公表され、亡くなったことになっている。
そう、「なっている」。
勇者は生きているが、全身のところどころに火傷の跡を、とくに重症だった目を失明。
もともとの美貌が損なわれたようで、いや逆に、盲目の傷だらけの勇者は、十字架を背負うキリストよろしく悲壮感があり、崇拝対象としては磨きがかかって。
壮絶な戦いを制し、奇跡的に魔界から生還した神神しいさまを、目にした人人は、半狂乱に号泣してひれ伏すだろう。
より神格化した勇者を、死ぬまで崇め奉り、もてはやし騒ぎたてるのは目に見えている。
だから、意識をとりもどした勇者に「死んだふりする方法もあるぞ」と提案を。
彼が、祀りあげられても調子にのらず、肩を縮めるタイプなのも、それでいて、人に求められて断れない性分なのも知っていたから。
目が見えないはずが「いいの?」と視線をあわせて聞いたのに、肯いたなら、生存を知るエントの人人の理解を得て根回しを。
「勇者は人柱となり、世界を救った」と国国にこれでもかと、しつこくやかましく喧伝。
すっかりダマされ、涙に暮れて冥福を祈る人人を尻目に、俺と格闘家と勇者は飛空艇でこっそりと旅立って。
向かったのは、勇者の故郷。
人里はなれた、こじんまりとした村で、建物や畑は踏み荒らされ燃やされて、見る影がなかったが、村人はほとんどブジ。
避難した国の城壁が強固で、守備を貫けたことから、兵として戦った若い青年以外に、目立った死傷者はいないとのこと。
勇者の育ての親も生きていて、泣きながらも「よく生きてもどってきてくれた」と熱い抱擁を。
泣きじゃくる彼に代わり、俺と格闘家が事情をあかして「死んだことにして、こっそりと、村でしずかに生活させたい」と頼めば「また、ともに暮らせるのだな」とむしろ大歓迎してくれ、村人も同じく。
もともと村外との交流をあまりせず、よそ者も寄せつけない、世の中と距離を置いて生活する土地柄だ。
帰還した手負いの彼を、人目から遠ざけ守るのに、積極的に協力してくれたもので。
そんなこんなで、しばらくは、三人で村の復興の手伝いを。
村の再興のメドがついてきたら、格闘家は旅立っていった。
勇者の死について、あらためて説明して回るのと、世間の動向を窺うために。
村にのこった俺らは、彼の親の生業、森での猟や野草、薬草、茸の採取に勤しんで。
盲目になったせいなのか。
犬並に鼻が利くようになった彼は、森の仕事をはじめ、なにかと役立ち、哀れまれるところか、皆から助力を求められ引っぱりだこ。
俺もまた、本業の踊り子として活躍。
それまで、あまり、なかった娯楽を盛んにさせ、今や立派な村の一員となり、人気者に。
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