エピローグ③

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エピローグ③

村をでてから長年ずっと、彼が望んでいたような地に足をつけたスローライフ。 それが板についてきたころ、ある日、俺と彼は見晴らしのいい丘へと訪れた。 丘にはぽつんと墓が。 白魔導師のだ。 マグマによって、骨の一粒ものこさず全身溶けてしまったので、形見を埋めて、その上に墓石を。 丘についてから、しばし二人して口をきかず、墓を眺めて。 深呼吸してから、俺は切りだした。 前世で五股したことから、転生後に魔王になった彼女と再会したことまで、すべて洗いざらいに告白。 さんざん前世で浮気しまくっただけでなく、そのことを反省していないかのように、今世でも人、魔物と野郎どもと節操なく体を重ねたことも。 まあ、さすがに格闘家については、伏せたけど。 勇者の容態と生活が安定してから、一から話すつもりでいた。 そりゃあ、そうだろう。 首にナイフを刺したままマグマにダイブし、死ぬのを覚悟で、最後の力をふりしぼって助けようとしてくれたのに。 そうするだけの価値が、あいにく俺にはなかったのだから。 命に代えて助けたのが、前世の五股の報復を受けただけの、とんだ自業自得色狂い糞野郎なんて。 知っていたら、ため息を吐き、火口から背を向けたかもしれない。 知らないまま「キーがブジなら、それでいいんだ」と盲目の彼が笑いかけては、哀れすぎる。 「なんで、こんなヤツのために!」と地団太を踏むのは、ごもっとも。 もしくは「世界を見捨てて、決戦直前に一緒に逃げようとした」ことを、ドン引きされるかと思ったのだが、彼は顔色を変えず。 見えない目を白魔導師の墓に向けたまま、なんなら穏やかな顔つきをして「不思議なものだな」とぽつり。 「キーの元恋人は魔王となって、あらゆる手を尽くして、ひたむきに目的のため努力して、世界征服まで利用したのに。 それでも、むくわれないとは・・・。 完璧にキーを閉じこめたはずが、心だけでなく、結局、体も独占しきれなかった。 絶望的な状況でもキーは屈せず、諦めもせず、道連れに殺そうとしたほどだしね。 比べて俺は、恋仲になろうと、約束もしていなかった。 監禁なんてもってのほか。 束縛したり過干渉になったり、カケオチするとか強硬手段もとらなかった。 キーが多くの人や魔物に抱かれているなんて、まるで知らなかったほどだ。 魔王に洗脳されていたせいもあるだろうけど、勇者の立場で、キーと結ばれるのが難しいのは分かっていて、半ばあきらめていたから。 魔王とは対極に、俺はキーを野放しにしていたと云えるね。 おかげでキーは野郎どもに抱かれ放題。 いつ、誰かに口説き落されても、おかしくなかったのに、こうして俺の望みどおり、戦いが終結したあとも、そばにいてくれるなんて・・・」 「俺を選んでくれてありがとう」と一ミリのイヤミもなさそうに微笑みかけたのに、胸打たれたというか、あまりにお人よしが健在で、いっそ嘆きたくなったというか。 勇者に火傷の後遺症がのこり、失明したのは、前世の罪を含めた俺のせいだと思っている。 なので、もし、全容を知った彼が「目の前から消えろ!」と拒絶しても、放れるつもりはなかった。 彼に憎まれ恨まれながらも、責任を持って、最期まで面倒を見ようと。 前世について含め、暴露したのは、そうしてツライ贖罪の道を歩みたかったからもある。 前世の恋人の呪い、そのとばっちりを受けて、彼は火傷跡がある体になり失明。 一方、呪われた張本人の俺は、男に魔物にレイプされつづけたものを、あんあんヨガって悶えただけで、五体満足にぴんぴん。 「どの面下げて」とただでさえ罰がわるいのに、きゃっきゃうふふ、いちゃいちゃライフを満喫するなんて、とても・・・。 ただ、彼がいちゃつくのを求めるなら、応じるしかあるまい。 どれだけ気が重くても、居たたまれなくても、まあ、それはそれで自分への罰になるのか。 それにしても、罰とはほど遠く「選んでくれてありがとう」と無邪気に愛の告白をするのに、先が思いやられて、ため息。 彼は気にせず、白魔導師の墓に花をそえて、お祈りを。 しれっとしているのが気に食わなく、帰り道に「よく、そんなお人よしで、今まで凛々しく勇者やれてたよな」と一言チクリ。 「そうでもないよ」と爽やかに笑ってみせた彼は、ただ、思いがけない返しを。 「格闘家が帰ってきたら、あらためて話しあわないと。 すこし村に迷惑をかけるかもしれないね」 盲目になっても、俺の隠しごとは丸々お見通しってか。 浮気の歴史を聞かされても平常心だった彼も、格闘家にはムキになるらしい。 まあ、なんとなく分かるような・・・。 村での、地道に営む生活に慣れては、また、暇つぶしに見境なくセックスしたがる症状がでるかと思ったのだが。 しばらくは彼と格闘家の顔色をうかがい、はらはらしっぱなしで、浮気する余裕はなさそうだ。 長い長い物語におつきあいいただいて、ありがとうございます! 前世の五股や浮気について、悪びれない主人公はどうかと思ったのですが、まあ、一応、ハッピーエンドということで、大目に見てもらえれば・・・。 思ったより長くなって、わたしも迷子になりかけたのを、最後まで読んでもらい、ほんと、ありがとうございましたー。
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