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VS魔王③
「はあ?じゃあ、なに?
一斉攻撃を死守したりオトリになって戦う人たちを見捨てるというの?
魔王打倒を願って待ちわびる人人を裏切るって?
この期に及んで勇者の使命を捨てさせるとか、狂っている」
「まあ、わたしが云えたことじゃないけど・・・」と呟きつつ、眉間の皺を深める白魔導師。
「お前に云われたくない」と返せなくなり、目をそらして「しかたないだろ」と。
「・・・はじめから、勝ち目がないんだから。
俺たちの作戦は、スパイのあんたから魔王に垂れ流し。
あんたをダマしたり丸めこもうとしても、逆にダマシ討ちされる危険がある。
大体、魔王の洗脳漬けにされた勇者が人質になっているんだ。
あんたを殺したとして、洗脳の後遺症がどうなるか分かりゃあしないし。
あんたのさじ加減で、勇者は精神崩壊しかねないんだろ。
そう脅したのは、あんたじゃないか」
「ふん、身のほどを弁えているあたり、まだ賢いほうね。
でも、どうして、わたしが交渉に応じると思ったの?
魔王さまは、できるだけ確実性を高くして、勇者と伝説の剣を葬りたがっている。
そりゃあ、愛しき人のせつなる願いをかなえたい。
そんな忠誠心溢れるわたしが、勇者逃亡の手伝いをすると?」
「いや、あんたも魔王が勇者を殺すのを見過ごせないはずだ。
せいかくには、たとえ魔王が勇者に襲いかかるのだとしても、近づいてほしくない。ちがうか?
勇者を洗脳した理由に、今も疑いを持っているからだろ?
殺そうとしているように見せかけ、魔王がとうとう自ら勇者を犯すのではないかって。
馬鹿げていると分かっていても、不安に駆られてしまうのは、理解できないこともないよ。
恋愛には割りきれないもんがある。
・・・スキな相手を殺してしまうとか。
あいにく、身に染みて分かっているもんでね」
実際に恋愛沙汰で刺殺された俺の語りとなれば、かなり説得力があったらしい。
「割りきれない、たしかに・・・」と白魔導師は肯き、目を細めた。
「勇者と世界を天秤にかけて、全人類を地獄に叩き落そうとするほどにね。
にしたって、わたしと比べものにならなほど、正気の沙汰じゃないけど」
「たしかになあ」と思いつつ「そうでもないだろ」と苦笑。
「もともと勇者は、勇者らしくなかった。
勇者に値する能力や器はあったが、魔物が憎いとか、世界平和を遂げたいとか、地位や名誉を手中にしたいとか、世の女を物にしたいとか、魔王打倒に対して、とくに動機や情熱や欲がなかったんだから。
神が選びまちがえたんじゃないか?
それに旅をしてきて、分かったろ。
世界が滅亡する危険が迫ろうと、国や人は魔王打倒に非協力的で、どっか他人事のように思って、態度が冷めてたろ。
縄張り争い、つまらない意地の張りあい、悪循環な憎しみあい、金や権力を巡っての揉めごとしてばっか。
なんなら魔物を調教して、敵国にけしかけたり『どこまで馬鹿なんだ』って開いた口がふさがらなかった。
神も呆れかえってさ、人を見放そうとするのを、どうにか、つなぎとめるのに、どれだけ俺らが土下座したか。
最終決戦直前になって、今も馬鹿をやらかそうとしている始末だし。
各国の仲間が、どうにか宥めすかして、抑えこんで尻を叩いているけどなあ・・・。
まあ、なんといっても、魔王のひ孫から女神の哀れな境遇を聞いて、思ったんだよ。
魔王を亡き者にしたら、懲りずに人は調子にのるんじゃないか。
魔王がいたほうが、まだ謙虚になれるんじゃないかって」
「あんたって・・・意外と達観したものの見方して、まるで二度目の人生を歩んでいるように(正解!)ひねくれてんのね。
魔王さまを愛するわたしより、世の中や人を蔑んで嫌悪しているんじゃない?
それだけ勇者の肩を持ちたいんだろうけど・・・。
にしたって、たとえ魔王さまを説得できたとして、魔物と人の戦いがどうなるか、分からないわよ?
勇者に手をださないよう約束させることができても、地上の制圧を止められない。
もし魔物が地上を支配してしまえば、いくら世界の果てのような秘境にこもったって、あんたたちも生きていけなくなる。
支配完了するまで、つかの間だけでも勇者に念願の夢を見させたいっていうの?」
「・・・そうだな、勝ち目のない戦いで死ぬより、そのほうがましだとは思う。
あとは賭けだよ。
できたら、戦いの勝敗がつかないまま、ずるずると長引いてほしいが・・・。
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