VS魔王④

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VS魔王④

「世界滅亡するかしないかの瀬戸際で博打をしないか?」 俺の誘いに、うんともすんともなく、薄笑いを浮かべた白魔導師。 そのあと魔王と連絡をとったのだろうが、どう丸めこんだのやら。 三日経ってから「一世一代のやけくそな賭けにのってやろうじゃないの」と不敵に笑い応じたもので。 格闘家の協力も不可欠とあって、今更とはいえ、洗いざらいを打ちあけた(勇者の悪夢を代わりに引きうけていることは伏せて)。 さすがに怒られるか、責められるかと思いきや、寂しげな顔をしつつも「分かった」とそれだけ。 はじめは、ほかの人と同じように勇者を崇拝して追従していた彼だが、ともに旅をするにつれ、見方や考え方が変わっていったのだろう。 神々しく輝かしい希望の星のように見えて、根っこの部分は平凡な青年なのだと。 まわりから山のような期待を押しつけられるのに抗えず、背中を押されるまま惰性的にすすんでいる側面があり、案外、自主性がないのだと。 正義感や使命感溢れる気高き勇者の偶像が壊れて、がっかりしたかもしれない。 が、俺のように哀れみ、放っておけないと思ったからこそ、協力要請に応じたと思いたいところ。 表むきの作戦と、裏の勇者戦線離脱作戦について、どちらも念入りに計画を立てていき、そして、いよいよ勃発した、世界の国国への魔物の同時攻撃。 エントが陽動作戦をはじめたのに合わせて、俺らは戦場のそばを身を屈めてこそこそ突っきり火口へと。 ちなみに、俺は洗脳状態(記憶喪失になり「勇者さま」と他人行儀な別人格)でなく正気。 今や勇者は諦めたように、俺にそっけなくしていたから、必要ないと判断してのこと。 山のふもとについたところで、藪に隠れて観察。 まんまとオトリにつられて、火山防衛隊の魔物がではらったのを見送り、魔王のひ孫に教えてもらった抜け道をのぼっていき、火口付近に到着。 時間がないので、一息つく間もなく、白魔導師が魔法をかけようとするも発動せず。 「どうして!」と涙目になり地団太を踏むのを「落ちついて」と勇者がその肩に手を置いた、そのとき。 勇者の首に、小さいナイフが突きたてられた。 ナイフをふるったのは、そう、白魔導師。 仰向けに倒れた勇者に合わせ、ナイフの柄を持ったまま、しゃがみこむ。 すかさず格闘家が身がまえ、踏みだそうとしたのに「近づいたら、ナイフを抜く!」と絶叫が。 「今はナイフが蓋になっているから、まだ死にはしない! でも、抜いたとたん、血が噴きだして、あっという間にあの世いきよ! すぐに回復魔法をかければ、助けられる! アイテムでは間に合わない! そう、この場で勇者の命を救えるのはわたしだけ! だから、わたしに命乞いをして、云うことを聞きなさい!」 「ぐ・・・!」と体を強ばらせる格闘家。 これっぽっちも白魔導師に疑心を持っていなかったので、ただただ、ぽかんとする俺。 呆気にとられながらも「死んでも、どうせ棺桶になるから・・・」と思いかけて、いや、と考えなおす。 これまで死んで棺桶になったのは、魔物との戦闘によってだけ。 対人の戦いをしたり、魔物に関係ない事件、事故に巻きこまれたことはあれど、死んだ経験はなく、その場合、どうなるかは分からない。 ましてや神に仕える白魔導師の行いとなれば、神こと、ゲームシステムがどんな判断をくだすやら。 棺桶にならず、蘇生できない可能性のほうが高そうで、とても「ハッタリだ」と踏みきれない。 目と口を開いたまま、硬直する勇者を見るに、胸騒ぎもするし。 白魔導師の裏切りを、すこしも念頭にいれてなかった自分のうかつさに歯噛みしつつ、相手の動向を窺う。 「それにしても、なにが目的だ?」と考えをめぐらす間もなく、勇者を人質にとっての要求が。 「わたしが合図したら、火口のマグマがなくなるわ! そしたら、キー、あなた、一人で跳びこむのよ!」
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