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勇者の剣はちょこバナナ
一
今季のオリンピックは、四年前の汚名を見事に返上するような内容だった。
中でも特に熱量があったのは「Eスポーツ」日本代表の試合だった。過去の火の鳥ジャパン、フェアリージャパン、侍ジャパンという称号に加え「陰陽師ジャパン」という称号が金メダルを獲得したチームに与えられ、SNSでも取り上げられた。
これが皮切りとなり、Eスポーツ選手になるべく専門校に入学する生徒が急増した。私もその一人だ。四年後のオリンピックに向けてEスポーツのトレーニングに励むが、私はEスポーツはおろかスマホアプリもあんまりわからない、所謂初見プレイヤーだ。
「えくれあ、今日のトレーニングは、フィールドのミノタウロス一体を倒す事だ」
コーチのカヌレットさんは、こんなトレーニングメニューを要求してくる。
「無理ですコーチ」当然即答する。
「無理か無理でないかじゃない、やるんだよ!」
夏の暑い時に温度と湿度が増しそうな激励だが、これ初見がやって良いメニューではないと私は思う。
「初見プレイヤーがやるのは、スライムとかゴブリンが妥当だと思うんですが、いきなりミノタウロスって」
「何もえくれあ一人で倒せとは言っていない、チームで倒すんだ。プレイヤーとチームのパフォーマンスを底上げ出来る。メダルをとりたいなら環境に拘る事だ」
「環境に拘れったって」どういう拘りだよ。
「モンスターは部位破壊して防御力を下げていけば、倒しやすくなるよ」
私の隣で「真理トッツォ」さんが声をかけてくれた。けど聞き慣れないワードがちらほら飛び交っっている。
「ぶい、はかい? ぼうぎょ、りょく?」
「例えば、カルビとか、上カルビとか、ホルモンとか、ぼんじりとか」
「思い切り焼き肉の部位じゃないですか」
「あのミノタウロスからカルビや、上カルビ、肩ロースが採れると思ってごらん」
「なんか、急にお腹空いて来た」
「よし、じゃあミノタウロスを倒せたら僕が焼き肉を奢ろう!」
「勿論倒します、勝ちます、生きて帰って来ます焼き肉の為なら、チームの皆さん頑張りましょうっ!」
俄然やる気が湧いて来た。ミノタウロスとの戦闘に備えて深呼吸をひとつ。Eスポーツで使用するスマホアプリは、今流行りの音声入力型の対戦ゲームだ。噛んだり、噎せたり、咳き込んだりしたら失点に繋がってしまう。そしてはっきり滑舌よく音声入力をする必要がある。呼吸を整えて私は呪文を詠唱する。
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