イージーモード

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世の中不平等だ。 生まれた瞬間から、スタートラインが違う。 引いたガチャによって、大体の人生なんて決まってるんだ。 平凡で平均、その他大勢、可もなく不可もない、絵に書いた様な普通の自分。 なのに、恋をしたのは手の届かない高嶺の花。告白する前から結果なんて見えている。 誰もが振り向くような容姿を持っていたら、この恋も報われていたのだろうか。 例えば、目の前のこの男の様に。 大学、講義終わり、誰もいない教室。 直は同学年の優斗と何をするわけでもなくそこにいた。 スマホを弄る直の横で優斗は本を読んでいる。直は横目でその姿を盗み見た。 高い鼻、形のいい唇、伏し目がちな二重の瞳に長い睫が影を作っている。ただ本を読んでいるだけなのに、まるで一枚の絵のように整ったその容貌は、男の直でさえ見惚れてしまいそうだ。 誘いなど余る程受けているのに、何故か優斗はいつも直の側にいた。 「どした?」 見つめる視線に気づいて優斗が読んでいた本を閉じ直の方を向く。 「別に......お前ぐらいイケメンだったら、世の中思い通りのイージーモードだったのかなって」 頬杖をついて面白くなさそうに直が呟く。 「イージーモードって...俺だって思い通りにならないことばっかりだよ」 直の言葉に優斗は苦笑いを返す。 「うっそだぁ~~」 そんな優斗に直は信じられないと口を尖らせた。 「その顔面でよく言うよ、昨日も女子から飲み会に誘われてたくせに。学食のおばちゃんもお前にメロメロでいつもおまけしてくれるじゃん」 周りの視線を独り占めするのはいつも優斗で、誰もその隣にいる直のことなんか見ていない。直はいつだってその他大勢。けして物語の主人公になれないエキストラだ。 「それと、世の中思い通りとは関係なくない?」 「だったら、教えろよ。どこら辺が思い通りになってないのかを」 直は拗ねるように恨めしそうに優斗を見た。 「.........」 一瞬の沈黙の後。優斗の瞳が真っ直ぐに直を射た。 「分かった。教えるから、その代わり一つ俺のお願い聞いて?」 「...お、おお......いいぜ」 整った顔に、正面から見つめられその迫力に思わず頷く。 優斗は大きく息を吸い込むと、自分を落ち着かせるように息を吐いた。 「直のことが好きだ」 「え......」 一瞬何を言われたか理解できない。 「お前のことが好きすぎて、直のことしか見えない。この本だって、本当は全然頭に入ってない。読んでるフリしてただけだ」 「っ......」 今自分は、優斗に愛の告白をされている、そのことを理解して直は息を飲んだ。 「教えたらお願い聞いてくれるって言ったよな」 直は動けない、息を詰め身じろぎ一つできなかった。 「直を抱きたい」 だけど、優斗の瞳に、燃えるような熱が浮かんだのを感じてビクッと体を跳ねさせた。 直は口を押えて下を向いた。 手が、震える。 「ほらね」 直の様子に、優斗がそう言う。どこか冷静なその声が、誰もいない教室に響いた。 「思い通りにならないでしょう」 その声に顔を上げる。そこには悲しそうに直を見つめる優斗がいた。 優斗はまるで最初から結果が分かっていたと言うように、あきらめを浮かべた顔で微笑んだ。 「............」 震える手を直は握りしめる。視界がぼやけて、涙が滲む。 直の瞳から零れ落ちた涙を、優斗が驚くように見つめた。 「やっぱりイージーモードじゃん......」 「え?」 直はそう呟くと、嫌味なぐらい整った優斗の顔を両手で掴んだ。 「俺も好きだってことだよ、バーカ!」 「直......」 潤む直の瞳に、みるみる笑顔になっていく優斗の顔が映る。 二人、噛みつくようにキスをした。 (叶うはずないと思ってたのに) 平凡で平均、その他大勢、可もなく不可もない、絵に書いた様な普通の自分。 けして物語の主人公になれないエキストラだ、とそう思っていたけど。 一番見て欲しい人が見ていてくれた。 どうやらこの物語の主人公は、目の前の高嶺の花の王子ではなく俺だったようだ。
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