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Ⅲ
27歳の玲香が開けたドアは、まさしく20年前の彼女の私室だった。
当時のままに封印された部屋。
しかし時々掃除はされたらしく、きちんと整頓され埃っぽくもなかった。
玲香の一番の目的は、亜理紗の痕跡を探すことだった。
彼女はドキドキしながら、机の引き出しを上から順番に開けていった。お菓子の類は処分してあったが、折り紙、塗り絵、画用紙や色鉛筆、クレヨンなどは保存してあった。玲香はお絵描きした画用紙や紙を期待と怖れで震える手で1枚1枚見ていった。
怖れとは、その中から異常なものが出てくることに対してだった。
絵はどれも、子供が描きそうな人物や花、静物などのスケッチと思われる素朴で他愛ないものがほとんどで、サインこそしていないが自分が描いたに相違ないと玲香は判断した。
が、中に数枚いくらかレベルアップした、玲香の絵に比べると「うまい」絵が混じっていた。それは玲香自身の上達ではなく、玲香とは異なった個性の所産だった。
玲香は戸惑い、眉根を寄せて考えた。
「これは、私が描いた絵ではない。では誰が?
亜理紗が絵を描くはずはない」
彼女はわかっていた。常識的に考えて、亜理紗は客観的に存在した人間ではなく、同年代の友達がいると多い思った彼女の空想の産物なのだと。
もしかすると、亜理紗は小さな子供の目にだけ見える霊か妖精のような存在だったのかもしれない。
いずれにしても、亜理紗は物を食べないし、絵も描かない。
と、玲香は1枚の絵に目を留め、息を殺してそれを見つめた。
そこには、黒い羽織を羽織った人物が描かれていた。それは5~6歳の少女の顔で、その頭上にもう1人少女の顔があった。
二人羽織だと玲香はすぐにピントきたが、不可解な謎が厚みを増して彼女に突き付けられた。
それを描いたのは、絶対に自分ではない。では誰が?
そして、描かれた2人の少女は玲香と亜理紗なのか?
20年間引き出しの中に眠っていた絵から飛び出してきた謎に、玲香の胸が激しく波打った。
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