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――記者会見が終了した後、母は「これからのことについて村上さんと打ち合わせしたいから、先に上に行ってるわね」と言って、エレベーターで重役フロアーである三十四階へ上がっていった。
「――あ、久保さん。司会進行お疲れさまでした!」
わたしは貢と一緒に、父の葬儀に続いてこの会見の司会を務めてくれた貢の同期に声をかけた。
「会長! お疲れさまです。桐島も。わざわざどうされたんですか?」
「貴方の進行がよかったおかげで、記者会見がスムーズにできました。ありがとうございました。父もよくこうして社員の頑張りを労っていたそうなんで、わたしもそれに倣ってみたんです」
仕事に当たり前のことなんてないんだ、と父もよく言っていた。だから頑張った社員はちゃんと評価していたし、ミスをした社員がいたとしても厳しく叱責せず、必ず挽回のチャンスをあげていたそうだ。願わくば、わたしもそうでありたい。
「ああ、そうでしたか。――ところで、どうして広報の人間じゃなくて総務の僕が司会をやってたんだ、って思ったでしょう? 桐島、お前もそう思ったよな?」
「ええ、確かに思いました。桐島さんや母と一緒に『どうしてだろうね』って不思議に思ってたんです。ね、桐島さん?」
「はい。――俺は、あの課長が広報から手柄を横取りしたんじゃないかって思ったけど……。違うのか、久保?」
貢はどうやら、家族や同期、友人など親しい相手には一人称で「俺」を使うらしい。というか、こちらが彼の地のようだ。
「実は、広報にいる同期が今日の司会をやることになってたんですけど、急に体調を崩して休んでしまいましてね。それで『お前、司会は慣れてるだろ? 任せた』って本人から代打を頼まれたんです」
「なるほど。じゃあ、お前が自分からしゃしゃり出てきたわけじゃないんだな?」
「当たり前だろ? いくらオレが目立ちたがりだからって、こんな重要任務を『オレやりま~す!』なんて軽々しく言えるワケないじゃん。……あ、失礼しました」
彼らはつい同期のノリで話していたけれど、わたしの存在を思い出すと神妙に姿勢を正した。
「なるほど。でも、貴方は確かに司会に向いているとわたしも思います。適材適所だったんじゃないかな。また何か会見をやる時は、久保さんに司会をお願いしてもいいですか?」
「最高のお褒めの言葉、ありがとうございます! その際はぜひお声がけ下さい!」
わたしからの高評価に、久保さんは天にも昇るような気持ちだったに違いない。これが彼のやり甲斐に繋がれば、わたしはトップとして嬉しい限りだ。
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