第一章 恋、自覚のきっかけはキス

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ハァと無意識にため息を吐きながら、遼は教室の机に鞄を置いた。 「おはよー」 するとすぐに、昨日の合コンに遼を誘った宰が声をかけてくる。 「......はよ」 ブスッとした顔で挨拶を返す遼に、宰はニヤニヤと笑う。 「いや~昨日は派手にやらかしたね~」 「......」 遼は宰をチラッと見るが、昨日のことはもう思い出したくないので聞こえないふりをする。 「あの後神崎呆然としてたぞ。くっきり遼の手形頬につけて」 あれは痛そうだったな~と宰が腕を組んで思い出すように言う。確かに思いっきり引っ叩いてしま った。跡になってるなんて大河は大丈夫だっただろうか。 思わず心配になってしまって、遼は首を振った。 「あれはあっちが悪いんだ!俺を女と間違えて......キスなんてするから」 思い出しただけで、胸がキュッと苦しくなる。 「......女と間違われたのが嫌で、キスされたのは嫌じゃなかったってことか......」 胸を押えて俯く遼を見て、宰がふむふむと小さく呟く。宰は遼の隣に座ると、体を近づけた。 「神崎、すっごいショック受けてたぞ」 「......そりゃ、人前で叩かれるなんて恥ずかしいだろ」 ショックを受けていたと聞いて、遼が言い淀む。大河だって男としてのプライドがあるだろう。人 前で思いっきり叩かれる姿を見られるなんて、恥ずかしいに決まっている。せめて突き飛ばすぐらい にしておけばよかったかと、遼はまたハァとため息を吐いた。 「違う違う。神崎さ、遼と仲良くなりたかったんじゃないかな?」 「え......?」 今日初めて宰の方を見た遼に、ふふと宰が意味ありげに笑う。 「だって今回の〇○学院との合コン、女子から神崎が参加するならって条件出されてたんだけどさ」 そんな条件が出されていたなんて。やっぱり他の大学でも大河のイケメン具合は有名のようだ。 「神崎さ、参加する代わりに遼を呼んで欲しいって言ってきたんだぜ」 「俺を......」 (神崎が俺を? なんで......) 遼がそう思った瞬間、ガララッと大きな音がして、勢いよく教室のドアが開いた。 「青木っ......!」 「......神崎」 開いたドアの向こうから大河が姿を現した。教室にいた全員が、大河の方を振り返る。 大河は膝に手を当て、ハアハアと肩で息をしている。額に流れる汗を拭う姿が、まるで映画の主人 公のようにかっこよくて遼と周りは息を飲む。遼のいる経済学部から、大河が専攻している理学部 はだいぶ距離がある。もしかしてその距離を走ってきたのだろうか。そうとう急いだのか、大河が咳 き込んだ。大丈夫か?と駆け寄りそうになって遼はハッとした。 (ダメだ、これがこの男の手なんだ。こっちに心配させといて、気付いたら神崎のことばかり考えさ せられる) 遼はギュッと拳を握りしめると、入口にいる大河から目を逸らした。 「っ......」 遼の反応に大河は傷ついた顔をするが、意を決したように遼の方に歩いてくる。大河は遼の隣まで くると立ち止まった。 「......」 大河が自分を見つめているのが分かる。だけど遼は顔を上げられなかった。勝手に意識が大河のい る方に集中する。大河から遼の反応に困っている雰囲気が伝わってきて、いたたまれなくなる。 思わず遼が口を開きそうになった時。 「ごめん‼」 神崎が遼に向かって思いっきり頭を下げた。 「昨日、あんなことしちゃって......」 どうやら神崎は昨日のことを謝りに来たみたいだ。遼に謝るために、こんなに息を切らせるまで走 ってきて。それを嬉しいと感じる、できることならすぐにでも許してあげたい。けれどどんなに謝ら れても、この先大河と仲良くなれても、もう遼の気持ちが届くことはないんだ。 だったらもう、関わらない方がいい。 「佐々木......俺帰るわ」 「おい......!」 宰が止めようとするが、遼は鞄を持って立ち上がる。遼は大河の方を見ないように、前を通り過ぎ ようとした。 「待って......」 「っ......」 その手を大河が掴んだ。
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