第二章 俺の天使編

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一日の講義が終わった後、遼は大河がいるという理学部の研究室棟にやってきた。理学部に遼がやってくると、先輩後輩同級生問わず何も言っていないのに大河の居場所を教えてくれ、終いには教授にまで『神崎くんに会いに来たのかい?』と言われる始末。大河の公開告白から、すっかり大学内で公認カップルになってしまった大河と遼。大河の温和な性格のおかげか男同士だというのに変な目で見られることもなく、周りからは驚くぐらいすんなりと受け入れてもらえている。こうやってみんなに温かく見守られているのがありがたいやら恥ずかしいやらで。 (まあおかげで迷わずここまで来れたけど......)  並んでいる研究室の中に『神崎大河』と書かれたプレートが付いている扉を見つける。 (うちの大学って、個人の学生が研究室なんて持てたっけ?)  不思議に思い左右の扉を見てみるが、各々『〇〇教授ゼミ専用研究室』や『第〇研究室』となっており、個人の名前は付いていなかった。 (え? 神崎だけ......? なんで?)  頭に何個もハテナを浮かべながらも、遼は大河の名前が付いた研究室の扉をノックする。 「神崎、入るぞー」  遼は声をかけると研究室の扉を開けた。 「青木......」  部屋に入ってきた遼の姿を見て大河の顔が嬉しそうに緩む。その顔にキュンとしながら近づくと、大河も遼を迎えるように腕を広げて立ち上がった、のだが。  バサッバサバサバサーーッッ、と大きい音がして、書類がその場に舞い散った。 「え......」  それに遼は足元を見る。床には無造作に置かれた書類や、本がそこかしこに積み上がって何個も山が出来ていた。大河が散らばった紙を慌てて直そうとするが、今度は机の上に積まれていた書類をぶちまける。そのまま足を滑らせ、大河は書類の海に溺れるようにこけた。 「............」  こけた事実に驚くように瞳を瞬かせてから、大河は遼を見上げると、えへへ、と照れるように笑う。 (可愛い顔しやがって......)  はにかんだ大河の笑顔に、キュンとときめきそうになってハッとする。 「お前......なんだこの乱雑に置かれたゴミの山は」 「ゴミじゃないよ、論文を書くための大事な資料だよ」 (資料これが......なんのまとまりもなく向きもバラバラで、ただただ積み上げられて足の踏み場もないこれが資料⁉ しかもあそこに積んでる本今にも倒れそう......!)  大河は立ち上がるとパンパンと服についた埃を払う。 「あれ? これ何の資料だったっけ......」  ぶちまけた紙を直そうとするが、元々どこにあったのか分からなくなった大河は、適当なところにそれを置いた。大河が遼の方に振り向く。 「青木......会いたかった」  笑って大河が遼に向かって腕を広げた。いつもなら照れ隠しで文句を言いながらも、その腕の中に収まるところだ、だけど。 「大事な資料を床に置くんじゃない! 大体こんな状況で論文なんて書けるかーーー‼」  紙や本が乱雑に置かれた室内に、遼の叫び声が響き渡った。
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