第一章 恋、自覚のきっかけはキス

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第一章 恋、自覚のきっかけはキス

(最悪だ......)  青木遼(あおきりょう)は心の中そう呟いた。  遼は大学の友人に誘われた合コンに来ていた。合コン自体にはそれほど興味はなかったが、人数が足りないと友人にお願いされたのだ。大学生活、付き合いも大事だし、恋人がいない遼には特に断る理由もない。なので軽い気持ちで参加したのだが。遼はチラッと、斜め前に視線を走らせる。  そこには大学の同級生、神崎大河(かんざきたいが)が女子を侍らせる姿があった。  正確には大河がというより、女子の方が勝手に大河に群がっているのだが、遼には大河が女子を独り占めにしているようにしか見えなかった。 (なんであいつがいるんだよ!)  大河は大学一のイケメンで、学内で知らない人間はいないぐらい有名だった。茶色がかった触り心地の良さそうなふわふわの髪。透き通るような白い肌、高く整った鼻梁。くっきりとした二重の大きな瞳は、深く綺麗なダークブラウンをしている。そこから生える睫は長く、その美しい瞳を縁取っていた。男でも見惚れてしまうぐらい整った顔。大河の人気は大学内だけにとどまらず、他校にまでファンがいてファンクラブまであるとかなんとか。そんな話が大河とは学部が違う遼の耳にも入ってくるほど、そのイケメンぶりは有名だった。  心の中でボヤキながら、大河の恐ろしいぐらいに整った顔をバレないよう密かに睨む。 「神崎くんほんとにかっこいいね!」 「そんなことないけど......でもありがとう」 (その誰もが見惚れるような甘い顔面で『そんなことないけど......』って、お前鏡見たことないのか!)  やけくそのようにグラスの酒を煽ると遼は心の中でつっこむ。 (褒められたことにお礼を言うのもポイント高いし......ほら見ろ横の女子が目をハートにしてお前のこと見てるぞ!)  遼はジトッと目を細めた。 「彼女いないなんて本当なの」 「本当だよ、今絶賛恋人募集中」 「............」 (彼女いないのか......以外。ふーん恋人絶賛募集中ね......)  そう思いながら酒を煽るフリをして、こっそり見つめていると急に大河がこちらに振り向いた。 (やばい見すぎた)  どこか遼を伺うような大河の視線に、慌てて顔を逸らす。 「そっかー彼女いないんだ~」  言いながら大河の隣にいる女子が、そっと距離をつめた。 (馬鹿か! 恋人募集中なんてそんなこと言ったら女子がその気になるだろうが!そうか......そうやって相手から言い寄ってくるのを待つ作戦だな~~これだからイケメンは嫌なんだよ)  チッと小さく舌打ちをし心の中で大河を詰るが、大河は女子が近づいても顔色一つ変えない。それどころか逆にさりげなく隣の女子と距離を取った。 「............」 (これも作戦か......簡単には靡かない、これがモテる男のモテる理由......?)  思わず見てはいけないと思いながらも、遼はついつい大河の方を見てしまう。 「なんかちょっと酔ってきたかも」  そう言いながら、隣の女子が大河にもたれかかる。 「っ......」  それに遼は手に持ったグラスを強く握りしめた。 「大丈夫? 水もらおうか」  大河は女子がもたれかかる腕を上げて店員を呼ぶ。その反動で女子の体が大河から離された。店員が持ってきた水を大河が女子に渡す。 (優しいんだな......)  はい、と水を女子に渡す大河の姿に、無意識に口角が上がりそうになって遼はハッとする。 (俺はそのぐらいで騙されないからな......絶対これも作戦だろ!だってその証拠に両隣だけでなく向かい側にいる女子まで目がハートマークになってるし!......って)  そこまで考えて遼はため息を吐いた。 (何で俺があいつを気にしないといけないんだ)  相変わらず大河は女子に囲まれていて。 「......」  その姿を見ていると気持ちがモヤモヤしてくる。大河がまたチラッと遼の方を見た。今度は完全に目が合う。それに遼は思いっきりプイッと顔を背けた。  イケメンが女子に囲まれてる姿なんか見ててもイライラするだけだ、ここはせっかくの出会いの場なんだから遼は遼で楽しめばいい。そう思って遼は前に座っている子に話しかけた。 「ねぇ、どこの大学なの?」 「えっと......○○大学です」 「合コンって緊張するよね、この唐揚げ美味しいよ」  どこか緊張気味に返事をするその子に、それを解すよう明るく声をかける。 「ありがとう......」  お礼を言いながらこちらを見る女の子に、遼はにっこりと笑いかける。するとその子が遼の笑顔に頬を染めた。 (そうだよ神崎なんて目じゃない! 俺だってそれなりにモテるんだからな)  大河と比べると太刀打ちできないが、遼だってどちらかというと綺麗な顔をしていると言われるほうなのだ。遼は癖のない綺麗な黒髪の前髪を整える。まあ友人には猫目で雰囲気がツンツンしてるから近寄りがたいとも、よく言われるけど。 (せっかくなんだ、俺は俺で楽しもう)  そう思い直し、遼はそのまま前に座る女の子と話の花を咲かせていった。  その遼の姿を大河がジッと見つめていたことなんて知らずに。
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