7、夏休み後半

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馴れ馴れしい態度で寄ってくる二人組。 先輩は困惑していて、僕が助けるしかないと思った。 あれ?でも…そもそも、お姉さんたちって言わなかったっけこの人たち、と嫌な予感が頭をよぎる。 「二人とも可愛いからさ、声かけちゃった」 金髪の男が僕の肩に手を置く。確実に僕のこと女子と間違えている。 夜だし、この辺は街灯も薄暗くて浴衣の柄も見えにくいけど、さすがに気づいてくれよと思う。 息が酒くさいし、かなり酔っているのかもしれない。 「あの、僕、男なんですけど」 おそるおそる切り出してみる。 「え?まじで!」 その笑い混じりの返しにはもううんざりだった。 男らしくなくて悪かったなと思う。 「えー!?でも、その顔なら男でもイケるわ」 「マジかよ!ねーわ!行こうぜ」 笑い声が遠ざかる。 なんとか撃退できたみたいだけど、かなり心をすり減らしてしまった。 勝手に勘違いされて、勝手に貶される。僕はこの顔で何度傷付けばいいんだろう。 恥ずかしくて先輩の方を向けない。楽しみにしていた花火ももう見る気がしない。そんな気分になんてとてもなれない。 お祭りのにぎわいの中、僕と先輩の間には会話がなくて、気まずい時間が流れた。 「あのね、唯我くん。本当のことを言うんだけど」 先輩が僕の方をまっすぐ見つめる。 「私ね、気にしたことなかったよ、顔のこと。私の自己満足かもしれないけど、それは知っておいて欲しくて」 僕は恐る恐る先輩の方を向いた。まっすぐな瞳が僕を射抜く。 「唯我くんが気にしていることなら、私、この先も絶対からかったり、傷付けたりしない。私は人が傷つくことはしない。傷つける人間にはなりたくない」 先輩の強い意志を感じる。 でも、絶対なんてない。 それはこの短い人生の中で痛いほどわかっているのに。 先輩を信じたい。 だって、先輩はいつだって僕の欲しい言葉をくれる。 それどころか、僕の理想を余裕で超えてくる。 「もちろん、信じてますよ。先輩は僕を傷付けるような人じゃないって。ありがとうございます。そう言ってもらえて、僕本当にうれしいです」 花火が上がる。 それは僕の暗闇の心に咲く先輩とよく似ていた。 けれど花火と違って、先輩は僕の心をいつまでも明るく照らし続けてくれる。 先輩こそが僕の生きる希望そのものだった。
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