9人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
馴れ馴れしい態度で寄ってくる二人組。
先輩は困惑していて、僕が助けるしかないと思った。
あれ?でも…そもそも、お姉さんたちって言わなかったっけこの人たち、と嫌な予感が頭をよぎる。
「二人とも可愛いからさ、声かけちゃった」
金髪の男が僕の肩に手を置く。確実に僕のこと女子と間違えている。
夜だし、この辺は街灯も薄暗くて浴衣の柄も見えにくいけど、さすがに気づいてくれよと思う。
息が酒くさいし、かなり酔っているのかもしれない。
「あの、僕、男なんですけど」
おそるおそる切り出してみる。
「え?まじで!」
その笑い混じりの返しにはもううんざりだった。
男らしくなくて悪かったなと思う。
「えー!?でも、その顔なら男でもイケるわ」
「マジかよ!ねーわ!行こうぜ」
笑い声が遠ざかる。
なんとか撃退できたみたいだけど、かなり心をすり減らしてしまった。
勝手に勘違いされて、勝手に貶される。僕はこの顔で何度傷付けばいいんだろう。
恥ずかしくて先輩の方を向けない。楽しみにしていた花火ももう見る気がしない。そんな気分になんてとてもなれない。
お祭りのにぎわいの中、僕と先輩の間には会話がなくて、気まずい時間が流れた。
「あのね、唯我くん。本当のことを言うんだけど」
先輩が僕の方をまっすぐ見つめる。
「私ね、気にしたことなかったよ、顔のこと。私の自己満足かもしれないけど、それは知っておいて欲しくて」
僕は恐る恐る先輩の方を向いた。まっすぐな瞳が僕を射抜く。
「唯我くんが気にしていることなら、私、この先も絶対からかったり、傷付けたりしない。私は人が傷つくことはしない。傷つける人間にはなりたくない」
先輩の強い意志を感じる。
でも、絶対なんてない。
それはこの短い人生の中で痛いほどわかっているのに。
先輩を信じたい。
だって、先輩はいつだって僕の欲しい言葉をくれる。
それどころか、僕の理想を余裕で超えてくる。
「もちろん、信じてますよ。先輩は僕を傷付けるような人じゃないって。ありがとうございます。そう言ってもらえて、僕本当にうれしいです」
花火が上がる。
それは僕の暗闇の心に咲く先輩とよく似ていた。
けれど花火と違って、先輩は僕の心をいつまでも明るく照らし続けてくれる。
先輩こそが僕の生きる希望そのものだった。
最初のコメントを投稿しよう!