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ファミレスの窓際の席で向かい合う八島先輩と僕。
メインの料理を食べ終わって、今はデザートタイムなのに、まだ夢なんじゃないかとふわふわした気分でいる。
僕はチョコレートサンデーを、先輩は夏蜜柑のパフェを食べていた。
一口ずつ交換とかしてみたいけれど、まだそれはできるような関係ではなくて、近くなったのに未だに遠い距離をもどかしく感じた。
先輩がみかんを口に頬張る。
美味しそうに食べる姿に見惚れていたら目があってしまった。
しばらく見つめ合ったまま時間が流れる。実際にはたいして時間は経っていなかったのかもしれない。でも僕には永遠のように感じられて、いつまでもこんな時間が続けばいいと思った。
先輩が息を吐いてから目を逸らす。
「私ね、今一人暮らしなんだ。両親が出張で二人とも海外に行ってて。昔はおじいちゃんの家に預けられてたんだけど、高校生になったし、一軒家に一人きりなんだ」
そう話す先輩がとても寂しそうに見えた。
家に一人きり。
その孤独さはとてもよくわかる。
「そうなんですか。僕も同じ感じです。一人はつらいですよね。みんな一人暮らしに憧れて一人の時間を欲しがってますけど、僕は一人は嫌です。やっぱりご飯とかはみんなで食べたい」
「そう!そうなんだよね。誰かと食べるとこんなにも美味しいのに、一人だと味がしないし。
家に帰ったときにもお帰りって言ってくれる人が欲しいなって、たまに思っちゃうんだ。高校生なんだから、しっかりしなくちゃって思うんだけどね…」
先輩の切なそうな表情を見ていると、自分の胸も強く締め付けられた。
僕が言葉を紡ぐ前に、電話の着信音が響く。
「あ、莉奈からだ。ごめんね、ちょっと席はずすね」
先輩が足早に去ってしまう。
先輩の悲しげな表情が頭から離れない。
僕が力になってあげたいけれど、それにしては自分が無力すぎて、できることが思い浮かばない。
すぐに先輩が戻ってきた。
でも様子がおかしい。青白い顔をしている。
「先輩、大丈夫ですか?顔色が悪いですよ」
「あのね、莉奈が階段から落ちて、入院だって」
「え!前園先輩が!?無事なんですか?」
「うん。一応本人から電話がかかってきたし、声もいつも通りだったけど、脚の骨が折れてて2週間入院って言ってた」
「そうなんですか…」
「固定しにくい場所だから手術をするって。すごく心配だよ」
「お見舞いに行きましょうよ。たぶん前園先輩も不安でしょうし。行った方がいいかもしれません」
「そうだね、行こう。明後日が手術らしいんだ。行くの明日じゃダメかな?」
もちろん僕に予定なんてあるはずがない。
「全然大丈夫です。明日行きましょう」
「うん。ありがとう、唯我くん。莉奈にも連絡しておくね」
先輩に笑顔が戻った。よかった。
そして、たまに呼んでくれる僕の下の名前。
いろいろな角度からの幸福感が僕を満たしていった。
帰り道。
いつも通りに明るく振る舞う先輩。
本当はいろいろな思いを抱えているはずなのに、無理をしている。
年下の僕に気を遣わせないように、自分が気を遣ってしまっているのだ。
そんなところが先輩らしいと言えばらしいが、いつも自分を後回しにしてしまうところが心配になる。
もっと周りを、頼って欲しい。
いつもの路地で別れる。
遠くからヒグラシのなく声が聞こえた。
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