5、夏休み前半

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ファミレスの窓際の席で向かい合う八島先輩と僕。 メインの料理を食べ終わって、今はデザートタイムなのに、まだ夢なんじゃないかとふわふわした気分でいる。 僕はチョコレートサンデーを、先輩は夏蜜柑のパフェを食べていた。 一口ずつ交換とかしてみたいけれど、まだそれはできるような関係ではなくて、近くなったのに未だに遠い距離をもどかしく感じた。 先輩がみかんを口に頬張る。 美味しそうに食べる姿に見惚れていたら目があってしまった。 しばらく見つめ合ったまま時間が流れる。実際にはたいして時間は経っていなかったのかもしれない。でも僕には永遠のように感じられて、いつまでもこんな時間が続けばいいと思った。 先輩が息を吐いてから目を逸らす。 「私ね、今一人暮らしなんだ。両親が出張で二人とも海外に行ってて。昔はおじいちゃんの家に預けられてたんだけど、高校生になったし、一軒家に一人きりなんだ」 そう話す先輩がとても寂しそうに見えた。 家に一人きり。 その孤独さはとてもよくわかる。 「そうなんですか。僕も同じ感じです。一人はつらいですよね。みんな一人暮らしに憧れて一人の時間を欲しがってますけど、僕は一人は嫌です。やっぱりご飯とかはみんなで食べたい」 「そう!そうなんだよね。誰かと食べるとこんなにも美味しいのに、一人だと味がしないし。 家に帰ったときにもお帰りって言ってくれる人が欲しいなって、たまに思っちゃうんだ。高校生なんだから、しっかりしなくちゃって思うんだけどね…」 先輩の切なそうな表情を見ていると、自分の胸も強く締め付けられた。 僕が言葉を紡ぐ前に、電話の着信音が響く。 「あ、莉奈からだ。ごめんね、ちょっと席はずすね」 先輩が足早に去ってしまう。 先輩の悲しげな表情が頭から離れない。 僕が力になってあげたいけれど、それにしては自分が無力すぎて、できることが思い浮かばない。 すぐに先輩が戻ってきた。 でも様子がおかしい。青白い顔をしている。 「先輩、大丈夫ですか?顔色が悪いですよ」 「あのね、莉奈が階段から落ちて、入院だって」 「え!前園先輩が!?無事なんですか?」 「うん。一応本人から電話がかかってきたし、声もいつも通りだったけど、脚の骨が折れてて2週間入院って言ってた」 「そうなんですか…」 「固定しにくい場所だから手術をするって。すごく心配だよ」 「お見舞いに行きましょうよ。たぶん前園先輩も不安でしょうし。行った方がいいかもしれません」 「そうだね、行こう。明後日が手術らしいんだ。行くの明日じゃダメかな?」 もちろん僕に予定なんてあるはずがない。 「全然大丈夫です。明日行きましょう」 「うん。ありがとう、唯我くん。莉奈にも連絡しておくね」 先輩に笑顔が戻った。よかった。 そして、たまに呼んでくれる僕の下の名前。 いろいろな角度からの幸福感が僕を満たしていった。 帰り道。 いつも通りに明るく振る舞う先輩。 本当はいろいろな思いを抱えているはずなのに、無理をしている。 年下の僕に気を遣わせないように、自分が気を遣ってしまっているのだ。 そんなところが先輩らしいと言えばらしいが、いつも自分を後回しにしてしまうところが心配になる。 もっと周りを、頼って欲しい。 いつもの路地で別れる。 遠くからヒグラシのなく声が聞こえた。
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