5、夏休み前半

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前園先輩のお見舞いに行く前に、お見舞いの品を買いに最寄りの駅ビルに来ていた。 今日は僕も先輩も私服だ。 先輩は丈の長い清楚なワンピースを着ていてとにかく可愛かった(僕にこの可愛さを表現できるだけの語彙力がないことが残念すぎる)。髪の毛もいつもと違って上で結んでいて、胸がざわついてしまった。 「何がいいかな…。莉奈の好きなクッキーとチョコは買ったけど。他にも持っていってあげたい」 「最近は生の花も衛生的にダメっていう病院もあるらしいですし…ハーバリウムとかはどうですか?見てて綺麗だし、癒されると思います」 「ナイスアイデアだね。さっそく見に行こう」 花屋さんに沢山のハーバリウムが並んでいた。種類も豊富でいろいろな色、形がある。 「目移りしちゃうな…。私だったら青がいいけど…あ、虹色も綺麗…。でも、莉奈に送るんだったらこの淡いピンクのやつがいいかな。迷うなあ…。なんか私も欲しくなってきちゃった」 「ほんと、どれも綺麗すぎて選べないですね」 先輩は目を輝かせじっくりと一つ一つを見て僕に相談しながら、ときには独り言を呟いたり、店員さんに聞いたりしながら決めていた。 八島先輩にとって前園先輩はそれほど大切な友人なんだと改めて実感する。 少し前園先輩を羨ましく感じた。 「よし、このピンクのやつに決めた!リボンもついてて可愛いから。喜んでくれるといいな」 「きっと喜んでくれますよ」 レジで会計をしてラッピングをしてもらった。 僕たちは病院行きのバスに乗り込む。 「どこの病院でしたっけ?」 「中央総合病院だよ。あと二駅かな」 このあたりは僕が小さいときに住んでいたところに近い。 うっすらと見覚えのある景色が流れていく。 病院に着いた。とても大きな病院だ。 受付を済ませて、先輩の部屋まで向かう。部屋は相部屋で先輩のほかに高齢の方が二人いた。 一番奥の窓際のベッドに前園先輩は寝ている。 「あすか、綾瀬くん。来てくれてありがとね。遠かったでしょ?」 「ううん。全然大丈夫だよ。それよりも莉奈の方が心配だよ。明日手術なんでしょ?」 僕と先輩でベットの横の椅子に腰掛ける。 「うん。でも、みんなが心配するほど痛くないっていうか…。なんか、痛いのは痛いんだけど、私的には捻挫かなって思ってたくらいだし」 「それならまだよかったけど…。はい、これお見舞い」 そう言って八島先輩が紙袋を差し出す。 「私の好きなクッキーとチョコレート!これもすごく綺麗…!なんて言うんだっけ?」 「ハーバリウムだよ」 「そう!それだ!わざわざ買ってきてくれたの?ありがとう。これで明日の手術頑張れる!」 前園先輩の嬉しそうな顔を見てぼくと八島先輩で笑い合う。 「それはよかったです。先輩と僕で沢山話し合って決めたんですよ。特にハーバリウムの方は八島先輩がすごく時間をかけて前園先輩のことを考えながら選んでました」 「そうなんだ、うれしすぎる!一生大事にするね」 「大袈裟だなぁ」 照れるように笑いながら、八島先輩は動けない前園先輩の代わりに横の棚の上にハーバリウムを飾った。 「そういえばさ、私全治3ヶ月だし、あと2週間入院しなきゃで、合宿に行けないんだよね。だから悪いんだけど二人で行ってもらいたいんだ」 それは残念だ。前園先輩が一番楽しみにしていたのに。 そう思うと同時に、もう一つの事実が頭に浮かぶ。 え、八島先輩と二人きり…? 頭がグルグル回っている。 嘘でしょ。 不謹慎ながら喜びがこみ上げてきてしまう。 八島先輩はというと、顔を曇らせて前園先輩の手を握っていた。 「そうか、残念だよ…。3人で行けないなんて。向こう行ったらテレビ通話するから。たくさん話そうね」 二人きり(先生はいるけど)の合宿になった。 「電話で沢山話しましょうね。お大事にしてください。僕は席を外すのでどうぞお二人でごゆっくり話してください」 平静を装ったけれど頭の中がパニックな僕は、そう言って返事も聞かずに病室を抜けてきてしまった。
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