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民宿の人に駅まで迎えにきてもらい、車で15分ほど揺られて目的地に着いた。
二階の部屋に案内されて、先生が到着するまで2人でトランプをすることにした。
宿主のおばあさんのお孫さんと一緒にババ抜きをして遊んだ。目のくりくりした男の子で5歳だと言っていた。年長さんらしい。
ババ抜きは6回戦して、なんと僕が全部負け。弱すぎるし、運がなさすぎる。手元に残ったジョーカーが憎たらしく笑っていた。
それでも、先輩と男の子が喜んでいる姿を見ると、不思議と悔しさはなくて、逆に穏やかな気持ちだけが残った。
17時前、先輩と僕が風呂を済ませたところで、やっと先生が到着した。
民宿と言われて想像していたよりも大きなお風呂から出てきたところで、ばったり先生と出くわした。
「あ、綾瀬くん。お待たせ〜。今、宿主のおばさんに挨拶してきたところだよ」
今日はもちろん白衣は着ていないけど、私服は相変わらずクシャクシャで、髪もはねまくっている。
「もうすぐご飯らしいですから、早く準備してきてくださいね。食堂は一階のトイレの横です。部屋は二階ですから。急いでくださいね」
「りょうかーい」
って言ってたのに、ご飯の時間になっても全然来ない。
「あれれ。おかしいね。先生、来ないね」
先輩と二人で顔を見合わせる。
「僕、ちょっとみてきますね」
「うん。お願いするね」
急ぎ足で軋む階段を上がって、先生の部屋をノックする。
「先生、ご飯ですよ。降りてきてください」
返事がない。
もう一度強めに叩いてみる。
「先生?」
もしかしたら、寝てるのかもしれない。いや、もしかしなくても寝ていると思う。
ドアを開けると案の定先生が荷物の上に突っ伏して寝ていた。
「先生、荷物の上で寝ちゃだめですよ。ご飯の時間です。僕、お腹減って死にそうなんで、早くしてください」
肩を掴んで揺さぶると、先生の目がゆっくりと開いた。
「ごめん。寝てた。すぐ行くから、先食べてて」
「ダメですよ。一緒に行きましょう。先生、置いていったら寝ますよね」
上体を起こした先生は、僕の言葉に目を泳がせながら、こめかみを人差し指で掻いた。
「まあ、うん。寝るかもね」
「寝ちゃだめでしょ!行きますよ!」
ワイシャツの襟を掴んで連行する。
「うわぁ、もっと優しく引っ張って〜」
「先生がシャキッと力入て歩いてくださいよ。転びますよ」
食堂に入り、先生を座らせると先輩が呆れた顔で言った。
「もう、先生、時間厳守でお願いします」
「ごめんよー」
先生があくびをしながら謝る。
それを見た先輩がムッと口を結んでから、少し眉間にシワを寄せた。
「時間までに来ないと、次からご飯なしですからね。私と綾瀬くんで全部食べちゃいますから」
そう言って少しほっぺを膨らませている。
え、何それ、可愛い。僕もちょっと怒られてみたいとか思っちゃう。
先生はというと、何食わぬ顔で水を飲んでいた。
「えぇ〜。八島さん鬼」
僕は先輩が鬼だったら余裕で食べられたい。
そろそろ自分が自分で気持ち悪くなってきたので、自重する。
「鬼じゃないですよ。さあ、冷めないうちに食べましょう。いただきます」
先輩の声に続いて僕と先生も手を合わせていただきますをする。
食べきれないほどたくさんの美味しい料理が出てきてとても幸せだった。
何しろ美味しそうに頬張る先輩が、こっちまで笑顔になってしまうくらい可愛すぎて、それだけでお腹いっぱいになった。
これがまだ初日であと3日も続くんだから、ここは天国なんだと思う。
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