6、合宿

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観光で大内宿にやってきた。江戸時代から建つ伝統ある家々と、川や山といった自然いっぱいの場所で、タイムスリップしたみたいに昔の面影がそのまま残っていた。 ここにくるまでの綾瀬先生の運転にはかなり冷や冷やしたけど、無事に着いて何よりだ。 今は家屋の中の囲炉裏を囲みながら三人でトマトを食べている。ここの近所に住む人がたまたまくれたもので、カットされたのがタッパーいっぱいに入っていた。きっと先輩がいつもどおり笑顔で楽しそうに話を聞いていたからくれたんだと思う。先輩は本当に女神すぎてたまに、いや、いつも神々しく輝いて見える。 トマトはかなり美味しくて、酸味と甘味が絶妙な加減でいくらでも食べられた。 「俺はトマト苦手だから食べてよ」と言っていた先生も、ものすごい勢いで頬張っている。 「初めてトマトが美味しいって感じたかも」 そして、結局ほとんどを先生が平らげてしまった。僕ももっと食べたかったのにって思ったけど、お詫びにお昼を奢ってくれたから許すことにする。近くのお食事処で僕と先輩は天ぷらそばを、先生はうどんを食べた。民宿に戻る途中でソフトクリームも奢ってもらった。 これくらいで、先生への好感度が3段階くらい上がってしまうんだから、僕は本当にチョロい。 民宿に帰ると、今夜はバーベキューをするからと言って宿主のおばあさんが庭先で準備をしてくれていた。それを手伝って、ちょっと早いけど今日は天体観測があるから5時に夜ご飯を食べ始めた。 網の上で牛肉、豚肉、ソーセージ、野菜はもちろんのこと、ラム肉も焼いていく。 人生で初めてラム肉を食べた。想像より遥かに美味しかった。とてもいいお肉なんだと思う。臭みがなくて、でも他のお肉とは違う独特な旨味を感じた。美味しすぎて思わず顔が綻んでしまう。 「すごく美味しいですね!」 そう言って先輩の方を見ると、先輩も笑っていたからもっとご飯が美味しく感じる。 「うん、すごく美味しい。お肉はもちろんだけど、野菜も。これおばあさんが裏の畑で育てた野菜なんだって」 先輩はバーベキューの準備のときにおばあさんと話していたからそのときに聞いたんだと思う。先輩ってすぐに人と仲良くなれるからすごい。ヒロトくんとも一番打ち解けてるし。今も、隣に座って一緒に食べているヒロトくんにお肉を取りわけて、食べやすいようにハサミでカットしてあげている。優しすぎる。 ほわほわとした気分で二人を眺めていた。 しかし、先生がぶち壊してくる。 「えー、でも、おれはピーマン嫌いだからお肉たくさん食べたいなあ。お肉しか食べたくなーい」 そう言って先生がお肉ばかりをとるのが少しムカついたから、飲み物を取りに行ってる間にたんまりとお皿にピーマンをよそっておいた。 「うっわ。誰よ、俺の皿にピーマン山盛りにしたの。さては綾瀬くんだなぁ。絶対に食べないぞ」 先生が別のお皿にピーマンを避け始める。 それを見て先輩が言う。 「大人げないですよ先生。5歳のヒロトくんだってこんなに食べてるのに。おばあさんの愛情がこもったピーマン、美味しいのに。ね、ヒロトくん?」 先輩が笑いかけると、ヒロトくんは笑顔でピーマンを食べた。もぐもぐしてる様子がとても癒される。 「うん。ピーマン大好き!おじさん、食べれないの〜?」 ヒロトくんが先生を見てニヤニヤと笑っていた。 慌てて先生が弁解する。 「いや、食べられなくはないよ?それにね、ヒロトくん。俺はまだ23歳だから。おじさんじゃないし!お兄さんね!…でも、やっぱり、ピーマンはやめとこうかなぁ」 「じゃあ、おじさんってことで」 僕が横から言うと先生が肩を揺さぶってきた。食べにくい。 「なんでそうなんの〜!わかったよ、食べるから。三人ともそんな目で見ないで!」 先生は渋々ピーマンを食べ始めるのだった。
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