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食べ終わって片付けをしたところで、おばあさんがスイカと棒を持ってきてくれた。
「スイカ割りしよう!」
ヒロトくんが先輩と僕の手を引っ張ってはしゃいでいる。
スイカ割りなんて初めてする。
僕も表に出していないだけで、心の中ではヒロトくんに負けないくらい、テンションが上がっていた。
ジャンケンをして割る順番を決める。
先生、僕、ヒロトくん、先輩の順番になった。
「いやぁ、残念だったね。最初のおれが割っちゃうから君たちの出番は無いよ」
先生はそんなことをほざきながら、目隠しの布を巻いていた。僕と先輩とヒロトくんは苦笑いする。
しかし、所詮口だけだと思っていた先生は、意外にもスイカに引き寄せられるかのように一直線に向かっていった。僕たちは指示も出していないのに、スイカの目の前でピタッと止まり、勢いよく棒を振り下ろす。しかも、かなり綺麗な太刀筋だ。
そして、なんと、棒はスイカに命中。
鈍い音が辺りに響いた。
すごい。
が、しかし、スイカは割れない。
当たりどころは完璧だったはずなのに、先生が非力すぎた。これでは、スイカじゃなくて先生の腕の骨が割れていそうだ。
「痛い!え!?硬すぎじゃないこのスイカ?手が痺れたんだけど!骨折れた!」
先生が目隠しを外して手を摩っている。
その様子がツボに入ったのか、甲高い声でヒロトくんが笑い転げた。なんだかつられて僕も面白くなってきてしまう。
「先生、力なさすぎですよ。あれだけ振りかぶって、ど真ん中に命中したら、普通割れますって」
言ってて笑いが止まらなくなる。
先輩もお腹を抱えて笑っていた。
「先生、だって、私たちの指示もなく、スイカに吸い寄せられると思ったら、スイカに命中して割れると思ったのに、割れないなんて。そこは割ってくださいよ」
「だって、てか、そんなに笑わないで〜!こっちまで面白くなってきちゃうじゃん。あ、だめ、だめ、やばい、お腹痛い。やめて、やめて、特にヒロトくん、笑い方変だから、だめ、マジでヤバい」
全員で笑い地獄から抜け出せなくなってしまった。
一旦おさまっても、すぐに誰かにつられてしまいそれを繰り返して、やっと落ち着いたときに、僕は深呼吸をして目隠しをつけた。
棒の上におでこを当てて軸にして、10回数えながら回る。
終わった頃にはふらふらして、どこが前か全くわからなくなってしまった。この状態でスイカ一直線だった先生がすごすぎる。
前も後ろもわからない僕に、先輩とヒロトくんが一生懸命指示を出してくれる。その中に混じって適当言って惑わせようとしてくる先生がかなりうざい。
「あー、綾瀬くんもっと左じゃなーい?」
「先生、嘘言わないでください。綾瀬くん、あと一歩前!そうそう、いい感じ!そのまま振り下ろせば完璧だよ!」
「頑張れ!お兄ちゃん!」
先輩とヒロトくんを信じて、全力で僕を振り下ろす。
手に響く感触。見事命中したみたいだ!
また、同じ鈍い音が鳴り響いた。
けど、鈍い音を響かせたのは棒と僕の骨だったみたいだ。
体に伝わる振動を感じながらその場で固まる。
声も出ないほど痛い!
体全身が痺れる。
そして、気づいたときにはその場に倒れ込んでいた。
「だ、大丈夫!?唯我くん!」
先輩が駆け寄ってきてくれるのが音でわかる。
優しいな。それにまた下の名前。
ああ、力が漲ってくる。
それにしても、あのスイカ、馬鹿みたいに硬かった。岩を叩いたんじゃないかなってくらい硬い。
そして、さっきの先生の様子が頭の中に蘇ってきてしまった。それに今の自分の状況が加わって、腹の底から笑いがこみ上げてくる。
次の瞬間僕は吹き出して大笑いしていた。
「ダメです、このスイカ、多分岩がなんかですよ。先生、よくあの程度の痛みで済みましたね」
僕が笑うとヒロトくんが笑い、ヒロトくんの変な笑い声につられて先生が笑うと、全員につられて先輩も声を上げて笑い出す。
またしばらく笑って、ヒロトくんに目隠しを渡した。先輩はスイカを眺めながら感心している。
「そんなに硬いなんてすごいなぁ、このスイカ。あれだけ叩いても無傷だもんね」
そう言って先輩が、棒でトントンとスイカを軽く叩いたそのときだった。
なんと、スイカが割れた。
上の方だけとかではなく、下まですっかり粉々に。
全員時間が止まったかのようにその場で動きを止めた。
先輩は状況が飲み込めないのか、フリーズしたまま穴が空きそうなほどスイカを見つめている。
僕の横ではヒロトくんが顎が外れるくらい口を大きく広げて、スイカと先輩を交互に見ていた。たぶん僕も同じような顔をしていると思う。
「や、八島さん。か、怪力!」
僕の後ろからマヌケな先生の声がした。
その声で我に返った先輩が慌てて否定する。
「ち、ち、違います!違いますからね!先生と綾瀬くんが、スイカにダメージを与えてくれてたおかげですよ!私の力じゃないですから!」
先輩は焦って身振り手振りを大きくしながら早口で喋った。普段は落ち着いていて清楚で可愛いイメージだからすごく珍しい。
まあ、それでも、ひとつだけ言えることがある。僕の目が確かなら、僕の順番が終わった時点でスイカは無傷で本当にヒビひとつなかった。
…ここは、たまたま外身は無傷だっけど、中身を先生と僕が割っていた…と言うことにしておこう。
うん、決して、先輩が怪力などでは…決して…ない。
粉々になったスイカをお皿に取り分け、四人で縁側に座りながら頬張った。
不思議なスイカは甘くてとても美味しかった。
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