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12時からご飯と言われてそれまで自分の部屋で暇をつぶす。
久しぶりにとてつもなく絵が描きたくなって、とりあえず中くらいのサイズのスケッチブックに色鉛筆で昨日の夜空を思い浮かべて描いた。
『天の海の 雲の波立つ 月の舟 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ』
昨日の先輩が言ってた和歌を改めて調べた。柿本人麻呂の歌らしい。まさに昨日見たのはそんな感じだったなって思う。
だから、ただの星の絵を描くんじゃなくて、その和歌と融合させてポップな感じで仕上げてみた。
そうしたら、その絵をヒロトくんが気に入ったみたいで、せっかくだからプレゼントした。
わざわざ額縁に入れて食堂の一番目立つところに飾ってくれて、とても嬉しくなる。
昼食のときにそれを見た先輩と先生がすごい褒めてくれた。特に先生は「え?なんで君、うちの部にいるの?」って結構真面目な顔で聞いてきたからちょっと面白かった。
午後はまたトランプと前園先輩とテレビ通話をして、早めに風呂に入り、ご飯を食べた。この夕食がとても豪華で、お米と味噌汁はもちろんのこと主菜が一品だけではなくて、肉も魚もいろいろな料理があり、副菜もテーブルいっぱいに並べられていた。どれも美味しくて、特に鶏肉の煮物が絶品だったからたくさん食べていたら、家でも食べられるようにと、おばあさんがレシピを教えてくれた。今度家で作ってみようと思う。
食後に花火をした。先輩が先生には内緒ねと言って入れたやつだ。
しかし、すぐに先生に見つかった。でもこの先生が怒るはずもなく「花火じゃん。おれやるの久しぶりだなぁ。楽しみ。ちょっとおばあさんに許可もらってくる」と言ってむしろノリノリだった。
袋を開けてとりあえずみんな一番長いやつを手に取る。ヒロトくんも一緒で、先輩が火をつけてあげた。
火をつけると、花火がシューっと音を立てて、カラフルな光が吹き出す。最初は青だったのに最後には黄色になっていた。
「この花火色が変わるんですね、面白い」
僕が興奮して明るい声で言うと、先生がなんか笑顔で返してきた。
「火は燃やすものによって色が変わるからね。ナトリウムが黄色、バリウムが青。他にもリチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、ストロンチウム、銅なんかでも色が出せるよ〜」
ちょっと何言ってんのかよくわからない。
先生の言葉は完全に右から左で、頭に留めようと思ったらキャパオーバーで破裂する。だから無視して、先輩のところへ行った。
先輩はというと、こちらに背を向けた状態で、誰もいない方に向かって、ピンク色の花火で空間にハートを描いていた。
唐突に行動が可愛すぎて悶えて死ぬかと思った。
「何やってるんですか?」
「うわぁ!びっくりした。もしかして、見てた…?恥ずかしい。なんか、無意識のうちにやっちゃってて」
先輩なら無意識の可愛さで軽く人殺せます。なんて言葉は飲み込んで違う言葉を吐き出す。
「先輩って面白いですね。でも、そういうところ最高に可愛いなって思いま…す…」
って、…え?やばい。全然言葉飲み込めてなかった。軽く口が滑って、気づいたときには全部喋ってた。
ちょっと焦る。いや、かなり焦る。
でも、先輩の顔を見たら、照れてるように見えて…。
「ゆ、唯我くんってば、私なんて、全然だよ!イカ、片手で割っちゃうくらいだし!いや、この話は封印するんだった…。じゃなくて、と、とにかく、えっと…。ありがとうね」
先輩は節目がちにそう言うと、ヒロトくんのところへ行ってしまった。
あ、やばい、僕、今、血吐いてない?大丈夫?
え、あの可愛さで、自分が可愛いって自覚ないの?天使かよ!言われ慣れてない感じが堪らない。
あと、下の名前呼びで、呼んだらあかん。なんかどこぞの方言混じるくらいあかん。ひゃあああ。
先輩の罪は重い。だって僕、殺された、殺されたよ、可愛さに。
よくわからない思考回路のまま、フラフラとした足取りで、一人寂しく花火をしている先生のもとへ行って、背中に寄りかかった。
「うわ、重いよ!って言おうとしたけど、結構軽いね綾瀬くん。ちゃんと食べなきゃだめだぞ〜。で、どうしたの」
「僕、死にました。今から天に召されます。今までありがとうございました。今日が僕の命日です」
「大丈夫そう?」
先生に近くにあった氷の塊で顔を両方から挟まれた冷たさでやっと正気に戻った。
そのあとは線香花火で誰か一番長くできるか競い合った。
先生が息を吹いて僕の花火を落とそうとしてくる。その隙にヒロトくんが横から先生の線香花火を吹き飛ばして先生がビリになった。で、それを見て笑ってしまったら僕のも落ちて、先輩とヒロトくんの一騎打ちになった。ヒロトくんのが落ちたところで、ほぼ同時に先輩のも落ちる。
「うーん。私の方が早く落ちちゃったかな。ヒロトくんの勝ちだね」
ヒロトくんは立ち上がって飛び跳ねながら喜んでいた。
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