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この合宿で最後の天体観測。
今夜星を見て、明日の昼には帰らなくてはならない。
昨日の高台に来て、望遠鏡をセットする。カメラと連携させて何枚か写真を撮った。
部活の研究に必要な写真を撮ったら、あとは自由時間。もう1時になっていて、日付は超えているけど、3時くらいまではここに居られる。
先生は眠いからと言って車に戻ってしまった。
だから、今は先輩と二人きりだ。レジャーシートの上に寝袋を広げて二人で横になりながら星を眺めている。
「あ!今流れたよ」
先輩が空を指しながら言った。僕にもくっきり見えた。でも、願い事とか全然考えてなくて、何もお願いできなかった。
「先輩は星に何をお願いしますか」
「私はね…世界平和かな。結局、いつもいろいろ考えるんだけど、最終的にそれになっちゃうんだよね」
「先輩らしいですね」
「そうかな…?」
「はい。とても」
笑われないでよかったと先輩は言ってから続けた。
「なんか、こんなふうに星を眺めてると、心が洗われるっていうか。すごく壮大な気持ちになるんだ。星を見て、宇宙を想像するからかな。程よい暗さと、星の光がすごく落ち着く」
「なんか、世界に二人だけの気分です」
「わかるな、その気持ち。こんなふうに星を眺めてたら、普段思い浮かばないことまでなんでも喋りたくなっちゃう」
「なんでも僕に話してください」
「いいの、本当に喋っちゃうよ」
「むしろ、聞きたいです」
先輩はスッと息を吸ってから言葉を紡いだ。
「私ね、学校に行きたくないんだ。
ずっと、AIの研究がしたくて高校からここに来たけど想像よりも厳しいところだった。
私、莉奈以外に友達がいないんだよね。クラスの人にも、学年の人にも避けられてる。別に、何をされるわけでもないし、いじめとは違うけど、ずっと避けられてる。
それで悩んでるときに助けてくれたのが今の生徒会長だったの。学校で頼れるのは莉奈と会長だけだった。だから、生徒会に入ったの。だけど、ほかのメンバーは部活が忙しいから、生徒会の仕事はほとんど私が引き受けてて。正直、パンクしそう。でも、会長には言えない。会長は私以上に仕事が山積みだから。
9月の文化祭に向けて来週からまた仕事があるから頑張らなきゃいけないのに。
でも、この合宿で元気をチャージできたよ。唯我くんのおかげ。聞いてくれてありがとう」
先輩は笑っていたけど、どこか悲しげだった。
「僕は無力で無能ですけど、先輩のためにできることならなんだってします。力になれることがあったらなんでも言ってください」
「ありがとう。
…そうだ。じゃあ、一つわがままを聞いてもらってもいいかな?」
「もちろんです」
「花火大会に二人で行きたいな」
行くに決まってる。なんならわがままどころか、僕にとってはご褒美だ。
「行きましょう!」
「いいの?ありがとう、すごく嬉しい」
「そのかわり、浴衣で来てくださいね。僕も浴衣で行きますから!」
僕も、このくらいのわがままなら許されるかなと思って言ってみる。
「わかった。浴衣で行くね。今からすごく楽しみだな。花火大会のおかげで来週の生徒会の仕事も頑張れるよ」
僕にとってはその言葉が最高の喜びだ。心の中で溢れんばかりの喜びをかみしめた。
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