6、合宿

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「私ばかり喋っちゃったね」 「じゃあ、僕も話していいですか」 「もちろんだよ」 まだ、誰にもしたことがない話。 それでも、先輩になら話せる気がした。 僕の好きな人は、女神のように優しい人だから、きっと僕の言葉をきちんと受け止めてくれると思った。 「僕は再婚して綾瀬になって、ハナノミチ中学に転校してきましたけど、それまでは普通の生活を送ってました。とは言っても、小学校ではいじめられてたんですけどね」 恥ずかしいから、星空の方を向いて喋った。でも、先輩は僕の方を向いて聞いてくれているのがわかる。 「僕は小学生のときに転校先の学校でいじめられてました。ちょうど父親が荒れ始めたときと重なっていて、僕は暗い性格になっていたんです。それがよけいにいじめをヒートアップさせたんだと思います。 でも、僕には救世主が現れました。そいつはクラスの人気者で明るくて活発で、なんで僕と仲良くしてくれたのかはわからないんですけど、気づいたら親友になってました。そのおかげでいじめはなくなりました。 でも、中学校に上がったときに、ほかの小学校から上がってきたやつに僕は目をつけられました。そいつはまた助けてくれるって言ってたのに、次の日、何も言わずに転校しました。 そいつのことだから何か理由があるって思った。でも、いじめられ始めて、エスカレートして、父親からも罵倒されて」 声が震えてくる。本当のこと話すのって怖い。でも、そのまま続ける。 「全部をそいつのせいにしたくなったんです。本当は、僕が悪いって気がついてます。僕が何もできないからいじめられるし、父親に嫌われる。でも、理不尽にそいつを憎んでる。そいつが僕をそこから救い出すって約束してくれたのに。嘘だった。だから、全部あいつのせいなんだって。そうしないと心が保てない。 ごめんなさい。こんな暗い話、やめますね」 自分で言っててやるせなくなる。 先輩の話を聞いて、先輩の負担を減らそうとしてたのに、いつのまにか逆転してる。格好悪い。 「やめなくていいよ。少なくとも、私には気を使わなくていいからね。本当に話したくないなら話さなくていいけど、でも、そうじゃなかったら話してもいいんだよ」 優しい。優しすぎて、話したくなってしまう。 もう、止めることは出来なかった。 「僕は、みんなに認められたい。お父さんにも、学校のみんなにも。どんなに諦めようとしてもそう思ってしまって、きっと本質的にそういう性格なんです。 でも、綾瀬になって、ハナノミチに転校してきて、それがもっと難しくなった。兄がいるからです。お父さんはもう兄しか見えてない。僕を見てくれない。唯一の血の繋がった家族なのに。僕は兄が羨ましい。すべての才能を兼ね備えた兄が羨ましくて仕方ない。でも僕と兄には天と地ほどの差があるから、これは当然な結果なわけで、なのに悔しい。 それに、あんなに大好きだった絵も、その兄に負けてしまった。人生のどん底だと思った。 でも、そんな僕を光に導いてくれたのは先輩です。先輩が僕の絵を褒めてくれたときは本当に嬉しかったです。心の底から喜びでいっぱいになって一番幸せでした。先輩がいてくれてよかった」 「こんな私が役に立てたのならよかった」 やっぱり先輩が好き、大好きだ。 先輩こそが僕の光なんだ。いつも心を優しく照らしてくれる。 空には、また流れ星が流れた。 僕が願うのは、先輩の幸せ。 「唯我くんはなんて願ったの?」 「…内緒です。先輩は?」 自分は秘密にするのに、先輩に聞くのは卑怯かなって思ったけど、気になってしまう。 横を向くと先輩はいつもの笑顔で微笑んでいた。 「唯我くんの願い事が叶いますようにって、お願いしたんだよ」 心臓がギュッと締め付けられた。 息ができない。 でも、その苦しさが心地良く感じて…。 今、この瞬間、最高の幸福感を全身で受け止める。 一生、忘れないように。
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